ヘニング・マンケル「五番目の女 上下」(2)

二つの殺人は残忍さからいって男だと思い込んでいたが、もしかして女かもしれないとルーンフェルドが会話のなかでいう。
その後すぐに第三の殺人事件が起こる。大学の研究助手ブロムベリが袋に入れられて海に浮かんでいるのが発見される。妻はヴァランダーの質問に答えて私は殺していないという。殺す理由があるのかと問うとブラウスを破って虐待された肌を見せる。「あの人はこういうことをした人です」そして「あなたがたの力になることはできません」と答えるのだが、ヴァランダーはすでに力を貸してくれたと思う。犯人は女だ。そして殺人はまだ終わっていない。

捜査中に自警団の動きがある。自警団のメンバーが道で迷った運転者を泥棒と決めつけて暴行する事件が起こり、ヴァランダーは強い態度で捜査に当る。その事件の連鎖反応のようにマーティンソン刑事の娘が中学生たちに襲われ、マーティンソンは警察官を辞めようと悩む。

ヴァランダーはリガにいる恋人バイバに電話で話しているとき、詰問されて受話器を電話台に叩きつけてしまう。彼は殺された男たちのことを思った。自分のまわりを囲む残酷性が彼の中にも潜んでいる。程度がちがうだけだ。

警官たちそれぞれの資質を生かした緻密な捜査が続く。最初の被害者エリクソンについての調査でポーランド女性ハーベルマンを殺して埋めたと推理して、警官たちは庭を掘り26年前に埋められた骨を見つける。これで被害者は女性を虐待してきた男たちだとはっきりする。
犯人はまだまだ沢山の男を殺す計画を立てていた。警官たちはこれ以上の犠牲者を出さないように必死の捜査で犯人に追いつく。
犯人の彼女の言葉は「そして夜になると壕を掘った」。

アルジェリアでイスラム原理主義者が起こした事件に母親が巻き込まれ、抹殺されていた真相が女性捜査官によってスウェーデンにいる娘に知らされる。今回もいま現在の広い世界のどこかで起きた悲劇がスウェーデンの地方都市で働くヴァランダー警部の事件となる。

【「もしかすると、われわれはいま永遠に続く連続殺人に立ち会っているのではないか? 動機が女をひどい目に遭わせる男たちに復習をすることなら、これは永遠に終わらないのでないかと自分は思います」ヴァランダーはスヴェードベリの言うことは正しいという気がした。彼自身、この間ずっとその思いに悩まされてきた。】
男性の攻撃性についてこんなに深く切り込んだ小説は読んだことがない。しかもヴァランダー自身が恋人への怒りを表すのに受話器を投げつけるという暴力行為をしてしまう。

読み終わったら脱力してしまった。この暴力に満ちた世界はどうなっていくんだろう。でも深く自省するヴァランダー、部下の女性刑事に重傷を負わせた自責の念にかられて嘆くヴァランダー、彼の存在に力をもらった。
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1160円+税)