ヘニング・マンケル『五番目の女 上下』(1)

ヴァランダー警部シリーズ5作目の「目くらましの道」のあとの「タンゴ・ステップ」は単独の作品だったので3年半ぶりの再会だった。待ちかねてたにもかかわらず気持ちがのらずに(サラ・パレツキーさん来日があったからね)遅くなり、ヴァランダーファンにいいから早く読めとせかされてしまった。

物語のはじめは1993年5月、アルジェリアでフランス国籍の4人の尼僧が侵入した原理主義者の男たちによって喉を切り裂かれて殺された。
そのときにスウェーデンから来ていた五番目の女アンナがいたのだが、アンナが単独の旅行者だったので警察はアルジェリアに来たことも抹殺した。埋葬されたあと捜査官ベルトランが呼ばれ、アンナの痕跡を完全に始末するよう言われる。彼女はもうひとつのバッグを発見する。そしてアンナに娘がいるのを知り、すべてを手紙に書いて出した。アンナの娘は手紙を読んで、もうためらわないと決心する。悲しみを鎮めるため、そして準備するための1年の猶予期間をおこう。

19994年9月、認知症と診断された父親と二人でローマを旅してきたヴァランダーが自宅へもどってきた。同僚たちに暖かく迎えられて書類仕事に取りかかろうとしていると、知り合いが失踪したのではないかと心配した男が訪ねてきた。燃料オイルの配達人でいつも配達しているエリクソンの家がずっと留守だという。ヴァランダーは配達人と家に入る。エリクソンは自動車販売業で財をなし、いまは広い庭園のある邸宅に住み、バードウォッチャーであり鳥をテーマの詩集を出している。失踪と判断して応援を頼み、庭に出ると鴉がたくさん目につき、壕に差し込まれた8本の竹串に刺された死体が目に入る。

次いで花屋を営むルーンフェルトが蘭の研究のためにアフリカへ行っているはずが、空港へ姿を見せなかったことがわかる。
エリクソンとルーンフェルトともに、以前に家に侵入者がいたが盗まれた物はないと届けを出していた。調べていくと二人とも暴力をふるったいた過去があるのがわかってきた。
そしてルーンフェルトが森で殺されているのが発見される。首を絞められ木に縛りつけられて死んでいた。
二人とも死に至るまでに長時間の苦しみを与えられていて、調べていくとその憎しみの原因がわかってくるが、痛めつけられた当事者は虐待の末に死んでいるのだ。女性刑事のフーグルンドは「なぜか見せびらかすような犯行の手口」と感じる。
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1160円+税)