アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』

友だちのSさんが貸してくれた。去年の秋に出た本できれいな表紙カバーがついている。
1944年に書かれた本だけど最初の日本語訳はいつ出たのだろう。出たときに二番目の姉が買ったのを兄の次に読んだ。妹もそのとき読んだような気がする。内容を全然覚えてなかったし、良いと思ったのかどうかも覚えていない。姉は亡くなったがこの本は姉が遺した本箱で眠っている。姉はクリスティー好きだったが、わたしは嫌いだった。嫌いといいながら家にある(父と姉が買ったから)のは全部読んだけど。だからけっこう読んでるんだ、クリスティー。心底から好きなドロシー・L・セイヤーズびいきのためにクリスティーは好きと言わない(笑)。

きれいなカバーやなあと言いながら開いてちょっと読んだらおもしろい。ええっ、こんな内容やったん?とびっくりして読み進んだ。
イギリスの地方都市に住む弁護士の奥さんジョーンが、末の娘バーバラが結婚して住んでいるバグダットを病気見舞いで訪ねる。その帰りの列車が遅延して何日か宿泊所で過ごすうちに読む本がなくなり、することがない状況になる。数日が同じように朝ご飯、昼ごはん、午後のお茶と昼寝と晩ご飯なのだが、ジョーンは考えごとに取り憑かれる。夫のこと、子どもたちのこと、女学校の先生の言葉などが思い浮かぶ。ロンドンのヴィクトリア駅へ見送りにきた夫のロドニーが戻っていく背中が列車からちらと見えたのが浮かれている感じだったことも。
ロドニーが随分といい人に書かれているがそうかなあ。
分別のあるジョーンをきつく書きすぎているようにも思うし。
でも、確かにジョーンみたいな人がいるわ。
(中村妙子訳 ハヤカワ文庫 680円+税)