パトリシア・ハイスミス『アメリカの友人』

パトリシア・ハイスミスのトム・リプリーのシリーズは『太陽がいっぱい』(1955)に続く『贋作』(1970)だけまだ読んでないのだが、『アメリカの友人』(1974)と『死者と踊るリプリー』(1991)を続けて読んだらどんな内容かわかって、読まなくてもいいかという気持ちになった。でもリプリーのなんともいえない暗い甘さを味わいたいなら読まなくてはとも思う。まあいまのところはこの3冊でいいことにしよう。いま調べたらもう1冊あった。『リプリーをまねた少年』(1980)は柿沼瑛子さんの訳だからこれから読む本に入れておこう。

トム・リプリーは妻のエロイーズとフランスのフォンテーヌブローから数キロ離れた小さな村ヴィルペルスに住んでいる。エロイーズは大富豪の娘で父からの金銭援助を受けている。援助金がなければこの地での生活が成り立たないのをトムはよくわかっている。頑健な60代の家政婦マダム・アネットが家事を全部引き受けている。
トムは絵を描き、エロイーズとともにハープシコードを先生に家に来てもらって習っている。その上に庭仕事が好きで季節の花やハーブを育てている。大きな仕事は庭師に来てもらい、毎日の世話はトムがしている。毎日朝早く起き咲いた花を切って部屋の花瓶に活ける。そこだけ見ていると落ち着いたブルジョワの生活だし、マダム・アネットにも村人たちにもそう思われているけれど。

ハンブルグから友人のリーヴスがやってきて仕事の話をする。やばい仕事だと思うが手助けしようと思う。このあたりの悪人どうしの信頼感は古いフランス映画みたいに惹きつけられる。
(佐宗鈴夫訳 河出文庫 980円+税)