お嬢様も疎開(わたしの戦争体験記 25)

山梨の学校に少し慣れてきて、大阪から疎開したわたしへの興味も失せたころ、こどもたちの間にうわさが流れた。あの山のふもとにある大きな屋敷に二人のお嬢様が疎開して住んでいるという。家庭教師がついていて屋敷で勉強しているそうだ。みんなの心にロマンティックな気分が広がった。
とう子さん、きん子さんと二人の名前がどこからかみんなに伝わった。わたしは、唐子、東子、錦子、欣子などと知る限りの文字を当てて想像の二人と仲良くなった。夢の中でいっしょに縄跳びをしたり、お人形ごっこしたり。

噂は結局いっときのことだった。誰もお嬢様がたを見たこともなく噂は広まったものの消え失せていった。わたしだけがずるずると思いを引きずっていた。いまも名前を覚えているぐらいだからたいしたものだ(笑)。

だけど、大きな会社のえらい人のお嬢様とかが疎開したら、唐子さま、東子さま、錦子さま、欣子さまのような生活をしていたんだろうと思う。