P・D・ジェイムズ『策謀と欲望 上』(2)

ニール・パスコーは岬にあるトレーラーハウスにエイミーと彼女の赤ん坊とともに住んでいる。一人暮らしに母と赤ん坊が15カ月前に割り込んできたのだ。パスコーはトレーラー・ハウスに住み出して2年、北部の大学から〈イースト・アングリアの地場産業に対する産業革命の影響〉研究のために助成金をもらっている。論文はほぼ完成しているがここ半年は手を触れずに原子力反対運動にのめり込んでいる。
【海岸の端にあるトレーラー・ハウスからは脅威のシンボルであるラークソーケン原子力発電所の地平線を背にした姿が臨まれた。その存在に反対する彼の意思と同様に、妥協をいっさい排した厳しい眺めだった。ニールはトレーラー・ハウスを本拠にして、自分が創立し、会長を務める小組織〈原発に反対する人々〉、略称PANUPを運営している。トレーラー・ハウスは、幸運の贈物だった。】
6カ月経つと助成金が切れる。それに原発の一般公開日の説明会で総務部長代理と大げんかになり、それを会報の記事にしたため名誉毀損で訴えられている。働きたいと思っても、原発反対の経営者だって彼を雇おうとはしない。

夜になってリカーズ主任警部が来て、“ホイッスラー”事件は1年3カ月前からで、被害者は4人、すぐにでも次の被害者が出そうだという。ウィスキーを飲みながら真夜中まで二人は語りあったが、ある事件をきっかけにロンドンを去ったリカーズは辛辣な質問をしかけてくる。
アリスの夕食会に遅れてきた発電所のレシンガム部長が、来る途中で“ホイッスラー”事件の被害者を見つけたために警察にいたと言い訳したのが5人目の被害者だった。

“ホイッスラー”事件は解決はしたが、今度は原子力発電所の総務部長代理ヒラリー・ロバーツが死体で発見される。それだけではすまずに事件は続く。
ダルグリッシュはだんだん深く事件に関わっていく。
(青木久恵訳 ハヤカワ文庫 上下とも640円+税)