P・D・ジェイムズ『不自然な死体』

P・D・ジェイムズのダルグリッシュ シリーズの未読本はあと3冊(「黒い塔」「わが職業は死」「策謀と欲望 上下」)になった。3冊ともアマゾン中古本のおかげで安く買え、いまここにある、ふっふっふ。
最初は「秘密」を貸していただいて、その後は図書館の棚にあるのを読んだので後半は全部読んでいる。気になりつつもそのままだったのを、もうひとつのコーデリア・グレイ シリーズを久しぶりに読んだら、2冊ともにダルグリッシュの名前が出てきた。再び燃え上がったダルグリッシュ熱(笑)。

「不自然な死体」(1967)
10月半ばの昼下がり、両手のない死体を乗せたボードがサフォークの海岸をさまよっている。横たわっているのはぱりっとした服装の中年男性である。ボートは不気味な積み荷を陸へ陸へとゆっくり運んでいく。
同じ日の午後、ダルグリッシュ警視は10日間の休暇を過ごすためにサフォークのモンクスミア岬へ行くところだった。直前にこどもが殺された事件があり、その両親に対して、慰め役、懺悔聴聞僧、復讐者、裁判官の一人四役を務めねばならなかった。つきあっているデボラ(「女の顔を覆え」で出会った)はこんな時期のプロポーズを期待していないだろうと思う。ダルグリッシュは犯人逮捕の数日前に2冊目の詩集を出したが、それを完成する時間とエネルギーがあったのだが。

岬にはたったひとりの肉親であるジェイン叔母がいる。ジェインは母を早く失い牧師だった父を手伝っていたが、その息抜きに鳥の研究をして論文を発表し注目を集めるようになった。いまや指折りのアマチュア鳥類学者である。5年前に住んでいた家を売って岬の突端の石造りの家を買った。ダルグリッシュは年に2回はここを訪れる。
叔母は人の助けがいらない女性だ。デボラとうまがあうだろうか。デボラは都会の生活にぴったりの女性だ。とにかくこの休みの間に態度を決めねばならない。
ゆったりと叔母と向き合っているところへ近所に住む作家たちがやってきた。
彼らは推理作家のシートンが行方不明だという。一同がなんやかやとしゃべっているところへ、この地域の犯罪捜査部の警部と部長刑事が来てシートンの死体が乗ったボートが着いたという。あの人はボートに乗るのが嫌いだという意見が出ると、彼はボートを操っているわけでなくボートの中で死体になって転がっていると警部。

今回の事件はダルグリッシュ警視の担当ではなく、レックレス警部が担当する事件だが、複雑な犯罪の中にやむなくダルグリッシュも引き込まれていく。
(青木久恵訳 ハヤカワ文庫 520円+税)