兄たちのゲートル(わたしの戦争体験記 68)

去年の初秋に買ったふくらはぎサポーターの具合がよくて、真夏を過ぎたころからつけている。クーラーの効いた部屋にいるときに最適だ。贅沢をいえばもう少し長くて膝もカバーできたらいいと思うが、膝のサポーターは別の製品になるのだろう。膝のほうはけっこう前から何足か持っていて真冬にはタイツと二枚重ねにしたりする。

わたしが国民学校3・4年生のとき、上の兄は中学生、下の兄は国民学校5年か6年だった。二人とも学校へ行く朝は玄関でゲートルを巻く。
学生服なのか国民服の学生版なのか、二人とも国防色の制服を着て足にはゲートルを巻いていた。ゲートルを巻くのが毎朝の行事で、上の兄は何日か何週間かしたら上手に巻けるようになった。7センチくらいの幅の帯のようなもので、足首から膝下まできっちりと巻く。足首は細くふくらはぎは太いから普通に巻くわけにはいかない。途中でひっくり返してうまく婉曲している部分にそわすのだ。

できたできたと上の兄は得意そうに出かけてしまい、下の兄は悔しくてゲートルを投げたり、ぐしゃぐしゃ巻きして出かけたりした。「足を出しなさい」と母がいって巻いてやることもあったが、しっくりしなくて学校の先生に叱られたり殴られたりしたこともよくあったようだ。
そのころからふくらはぎってナンギやなあと思っていたが、いま使っているのはふくらばぎにぴったりと張りついて快適である。

母親は兄たちのゲートルの布地を「スフ」といっていたが、毛織物、綿織物の代用品として用いられた布だ。ステープルファイバー (短繊維) の略なんだって。桑の木の皮が原料の布に触った感じに似ていた。
スフの服にスフのゲートル、母は可哀想だがそれでも着るものがあるだけましといっていた。