奉天(わたしの戦争体験記 69)

『週刊現代』の写真ページを読んでいたら「ノモンハン事件」の写真と解説が載っていた。わたしは戦争中の子だから言葉だけはよく知っている。関わった人として辻政信って名前は知っている。でも言葉を知っているだけで、どんな出来事だったか、どんな人だったのかまったく知らない。
本棚から家永三郎さんの『太平洋戦争』を夫が出してくれたのでぱらぱらめくっている。詳しくてわかりやすい。でも、こんな厚い本を全部よう読まんから単語を見つけたら要所を読むことにしよう。

それで思い出したんだけど、疎開したとき乗った夜行列車で読む本がいるだろうと父親が持たせてくれた本があった。その本をもらったとき、父はいつも古本屋で買った翻訳物を読めというから、おかしいなと思ったのだ。
いまも内容がつかめてないが、生真面目な青年将校のような人の話で、最後は奉天で処刑されるんだったか、処刑を免れるんだったか。母と長女と弟と4人で湊町から出る関西線に乗った。名古屋で中央線に乗り換え、塩尻で東京行きに乗り換えて日下部駅で降りる。

わたしが持ってきたのは『小公女』とか吉屋信子作中原淳一絵の乙女ものだったから、生真面目な青年たちが悲痛な運命をたどる筋にはついていけなかった。「お前の本は出すなよ」といわれていたのでリュックの底に入れておいたが、父の心配で終わったようで、女の子が持っている本まで調べられることはなかった。
戦中に翻訳ミステリーを娘に読ませたがる人だから世の中の動きを用心したのかな。

いまごろ「奉天」という言葉に郷愁を誘われている。あの本はどんな話でどんな主人公だったんだろう。