刑事クルト・ヴァランダーのシリーズ(創元推理文庫)を初めて読んだのは2005年で、それからずっと読んできた。シリーズは8作出ていてシリーズ外の「タンゴ・ステップ 上下」が同じ文庫に入っている。
「北京から来た男 上下」は文庫でなく単行本なので本屋で探すのに苦労した。
2006年のはじめ、降りしきる雪の中を一匹のオオカミがノルウェーとの国境を通り抜けてスウェーデン側に入ってきた。腹を空かせたオオカミは森の中を走り抜け小さな村ヘッシューバレンを通ると血の匂いを嗅いだ。近づいた家から死体を引っ張って道路まで運びがつがつ食べて姿を消した。
写真家のカルステンはヘッシューバレンの写真を撮るためにやってきてホテルに泊まり早朝出発した。山奥の村々や集落が過疎となって朽ちていく様子を写真に撮るための旅で、一人の老人が手紙で教えてくれた村に最後にやってきた。一軒の家でドアを叩くと返事がない。入ってみると人間の足が見えた。三軒目で裸の老人が死んでいた。カルステンは走って逃げた。もともと心臓が弱く車にもどって携帯電話をかけようとして胸に激痛が走った。声が出なくなってアクセルを思い切り踏み、対向車線に向かって行ってトラックと激突。トラックの運転手は瀕死の彼から村の名前だけを聞きとめた。
トラック運転手の聴取にあたったヒューディクスヴァル警察署の刑事ヒュッデンは、警察署への帰りに聞いた村を通ると雪道に斬り殺された片方の足のない死体があった。
警察署に連絡するとヴィヴィ・スンドベリが応じた。50代の体力のある優秀な女性警察官である。
最初の死体を調べると、大きな刃物かサーベルのようなものの傷が10カ所あるが、そのどれもが致命傷となり得た。村の家々からはだれも出てこない。
ヴィヴィはゆっくりと近い家まで歩き出した。このあとに3人の警察官が見たものはスウェーデンの犯罪史上類のないものだった。10軒の家にいたすべての人間が殺されていた。残った1軒から音楽が聞こえてカップルが応じた。周りの家で殺人があったと言うと「悪い冗談はやめてくれよ」という反応だったがヴィヴィは叱りつける。結局彼らだけ生き残ったのは、あとから村に入ってきたヒッピーだったから。二人は金融商品売買で生計を立てているという。
ビルギッタはヘルシングポリの裁判官で夫と4人の成人したこどもがいる。夫は弁護士だったが、性に合わないと辞めて鉄道の車掌をしている。
夫が持って帰ったタプロイド紙をふと見ると知った地名があった。彼女は亡くなった母親の書類を出して確かめた。母親はその村で養父母に育てられた。殺された村人の中に母の養父母がいるか知りたい。
年に一度の健康チェックの日、ビルギッタは血圧で引っかかり2週間の休暇をとることになった。
旧友の警官に電話してヴィヴィを紹介してもらう。ヴィヴィに連絡すると養父母の名前があるのがわかった。
さらに母親の書類を調べているとアメリカからの手紙が見つかった。パソコンで検索しているとアメリカのネヴァダ州と今回のヘッシューバレンとが似通っていることに気がついた。
7月26日の夜シャーロック・ホームズの隅っこの椅子に座って読み出して、以上の物語導入部まで一気に読んだ。
帰ってからすぐに続きを読めなかったが、数日後に読み出したらまた一気に寝食を忘れてというくらいに熱中した。おかげで目が疲れて体調悪し。これから一転して1863年の中国からアメリカの物語になる。
(柳沢由実子訳 東京創元社 上下とも1600円+税)