「ネコがネズミとってイタチが笑う、ぱちぱち」子供たちがはやしている。なんか引き込まれる声にこっちもそっと真似してはやしていた。戦争中に夜の新町を兄たちと歩いていると、イタチがすごい勢いで前を横切っていった。「イタチを捕まえたらいかんぞ、屁が臭いぞ、最後っぺが」と父にいわれていた。いわれなくても、あんなスピードで走っているのをどうしようもない。
「うちの台所にも住んでるよ」と母がいう。古い木造の二階建ての家で北側に台所があり、水捌けが悪かった。アメリカ軍の空襲でやられて「あの台所から解放されたのはよかった」と母がいっていた。昔は田舎から女中として新町に住み込みで働きにきた女性たちがいて、古いつくりの台所で働いた。北向きの寒い台所を使うことになった母親は辛かったろうが、あの台所には新町の女中さんの気持ちが残っていたんやな。母は足元をイタチが走るので高下駄を履いて仕事していた。
いまも元新町演舞場の横の溝からイタチが飛び出し道を横切って全速力で走っていく。近所の地主さんにイタチを見たといったら「イタチようけおりますで。よう走っとる」とのことだった。戦争中に見た子らの子孫かな。