プロローグ、「ゆうべ、雪が降った」と何度も繰り返す年取った女性の独り言からはじまる。父も母も兄も村の人たちもだれももういない。みんな亡くなってしまって残ったのはわたしだけ。
ずっと昔、9歳の少女のわたしは牧師館で両親と兄と暮らしていた。いたずら好きの兄は妹をからかうが仲のよいきょうだいだった。ドーセットの枯れ草色のわびしい丘、お屋敷があり主人たちはぬくぬくとしていて、使用人たちは屋根裏部屋で寒さに凍えていた。
巡ってきたうれしいクリスマスの日、ファニーは母に新しく作ってもらったマフを手に教会に行く。帰るとご馳走ができていてお客さんや使用人と楽しい食卓を囲む。
その最中に村の男性が亡くなった知らせがあり、別の家では子どもが産まれた。牧師の父は両方の家に行き遅く帰ってきた。翌日、ファニーは父について亡くなったおじさんの家に行き遺体に別れを告げる。その近所の家では昨日生まれた赤ちゃんを抱っこさせてもらう。
クリスマスの3日間は楽しいことだらけだった。
年が明けて春に父は街の教会に転任する。街ではクリスマスになってももうあの村でのようなクリスマスは訪れなかった。あのときわたしは9歳だった。
(野の水生訳 パロル社 2004年発行 1400円+税)