ジム・ローチ監督『オレンジと太陽』と児童移民のこと(2)

素晴らしい映画だった。見て良かった。
DVDを借りる前には絶対見たいと思っていたのに、いざ手元にくると重そうだなと後回しになる。ジム・ローチ監督はアイルランド映画の名匠ケン・ローチ監督の息子さんである。ケン・ローチ監督の映画もたくさんお借りしているが、まだ少ししか見ていない。どんどん見なきゃ。

イギリスのノッティンガムで暮らすマーガレット・ハンフリーズは夫と二人の子どもがいるソーシャルワーカーである。
ある日、仕事の場で会った女性シャーロットから自分の出自を調べてほしいと執拗に頼まれる。彼女は4歳のときに船でオーストラリアに送り出されたと言い、書類を差し出す。そんなことはあり得ないと思いながら調査を始める。後にシャーロットはマーガレットの調査で、死んだと言われていた母と再会できた。

夫は彼女の後押しをして書類や新聞記事を調べはじめる。マーガレットは休暇をとってこの調査を続けようと届けを出すと、担当者は2年の調査時間と資金が出るように計らってくれた。
彼女の活動のことが知られるようになり、出自を知りたいという依頼が殺到する。一人一人に面接して丁寧に対応していく。それに対して余計なことをするなという声も出てくる。
夫妻はただひたすら依頼者に応えて調査を続ける。マーガレットはオーストラリアに行くことが多くなり、夫がイギリスでの調査を担当する。

孤児院の子どもたちが長期にわたり密かにオーストラリアへ船に乗せられ送り出されていた事実がわかってきた。その数は13万人におよぶ。
〈白豪主義〉のオーストラリアは白人の労働力が欲しくて白人の移民を歓迎していた。児童移民は1970年になって有色人種も受け入れるようになるまで続いた。

マーガレットはオーストラリアで事務所として使うために庭付きの家を手に入れる。そこにはたくさんの人たちが集まってくる。
自分の出自を調べてほしい、母に一目会いたいという人たちに囲まれてのオーストラリア暮らし。
起業家のレンがみずから運転手をやってくれる。彼は修道院へ連れて行かれて性的虐待を受けていた。その修道院へ二人で行くシーンが重い。

マーガレットの調査により明るみに出た事実を認め、2009年にオーストラリア首相が、2010年にイギリスの首相が正式に謝罪し補償金を支払った。

エミリー・ワトソンがよかった。
「奇跡の海」「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」からだから長いこと見てなかった。

(マーガレット ハンフリーズ「からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち」都留信夫/都留敬子訳 近代文藝社  2625円)