ケン・ローチ監督の作品を見たいとTさんに言ったのが最初で、英国映画を中心にいろいろな監督作品を見せてもらっている。
ところが、ケン・ローチ監督ってなんとなく重そうだし結末が可哀想みたいだなどと言ってなかなか見る気が起きなかった。
「明日へのチケット」(2004)は、エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチの共同監督の作品である。エルマンノ・オルミとアッバス・キアロスタミの映画は見たことがなかった。理由は映画を見ない時代が長かった。ケン・ローチもTさんにお借りするまで未知だった。
最初の物語は老教授が企業の会合に出張していて、帰りの飛行機が飛ばなくなったために、インスブルックからローマへ列車で帰ることになる。座席がとれなかったので秘書の女性が食堂車の席を2枚確保してくれた。
食堂車でパソコンに向かって仕事の書類を書いていたが、途中からチケットをとってくれた女性に手紙を書く。列車の窓を眺めながら昔ピアノを弾いていた少女を思い出す。列車の連結部分に乗っているのはアルバニアからの移民の一家4人で、教授はそれも気になる。軍人が乗ってきて傍若無人な振る舞いで移民の子どものミルク瓶を倒してこぼしてしまう。教授は給仕にミルクを注文し子どもに持って行く。車内にほっとした空気が流れた。
最後にパソコンで書いた手紙を〈消去〉する。
第二話は厚かましいおばさんと世話係の青年の話。おばさんは2等切符なのに1等車の空席に座り、青年も前に座らせる。切符を持ったひとと一悶着あるが、車掌は空いた個室に入れてやる。青年は愛想を尽きて消えてしまう。ここまでやるとご愛嬌というか応援したくなるような。
その列車にはスコットランドからやってきたスーパーの店員のセルティックファンが3人乗っている。ローマでの試合を見にきた彼らは移民の少年にサンドイッチを食べさせて、列車のチケットを盗まれる。3人にはもう持ち金はない。
警察に彼らを突き出すか、自分たちが捕まるか。チケットは取り戻したが、いちばん移民に懐疑的だった青年が自分のチケットを差し出す。
「俺たちは、移民のことなんか、何もできないんだ」
ローマの駅には移民一家を迎えに父親が迎えに来ていた。移民一家の話はウソではなかった。サッカーファン3人は隙を見て走り出し逃げきる。
列車の旅はいいなあ。