柿沼瑛子さんお勧めのゲイミステリのうちの1冊。あとの2冊とともにアマゾンの中古本で買った。「かくてアドニスは殺された」(1984)というタイトルはずいぶん前から知っていたが、読もうと思ったのははじめて。1981年に発表されたサラ・コードウェル最初の作品である。そのころはハードボイルドな女性探偵ものに向かっていた。すこし落ち着いてからエドマンド・クリスピンがすごく好きになった。ドロシー・L・セイヤーズは別格で、ジョセフィン・テイが好きになって訳されているのは全部読んだ。
「かくてアドニスは殺された」は読み出したらとても味わいのある作品だった。書き手はオクスフォード大学のテイマー教授で、猫の餌やりをロンドンを留守にする友人に頼まれて、休暇をロンドンで過ごしている。教え子の法曹学院の弁護士たちがそのまわりにいて和気あいあいと飲んだりしゃべったりしている。
そのうちの一人ジュリアはたよりない女性で、しょっちゅうものを落としたり転んだりしているのだが、休暇をとってヴェネツィアにツアー旅行に行った。残った弁護士たちは彼女からの手紙をみんなで読んでわいわい言うのを楽しみにしている。
ジュリアはツアー客の中に美青年を見つけて熱を上げている。また女性客とも親しくなった。そんな微に入り細にわたる手紙を読んでみんなわいわい言っているうちはよかったのだが、ジュリアが殺人容疑で逮捕されたというニュースが入ってきた。ジュリアは青年の部屋の中にいたのちに一人で出て行った。2時間後に青年の死体が発見された。
ジュリアの無罪を証明するために弁護士たちは各々ができることをはじめる。テイマー教授は〈安楽椅子探偵〉として活躍する。
(青木久恵訳 ハヤカワポケットミステリ)