10月に読んだ同じ著者の「冬の生贄」は真冬の事件だった。家の中は暖かいから、マイナス20度の外に出かけるときは玄関で厚いコートを着て覚悟して出る。冬の雪原で死体が見つかったのだから、寒い上に寒い事件だった。
今回は夏、しかも滅多にない猛暑に見舞われておそろしく暑い夏である。たいていの家では冬の暖房はしっかりしているが夏の冷房装置はほとんどないから大変だ。
ほとんどの人が長い夏休みをとっているようで街は静かである。
スウェーデンの南部リンショーピン市警の犯罪捜査課刑事モーリン・フォシュは娘のトーヴェと暮らしていて、別れた夫ヤンネとは穏やかにつきあっている。ジャーナリストのダニエルは恋人ではないが、ときどきベッドを共にする仲である。
いま、ヤンネとトーヴェの二人はバリ島へ行っている。ヤンネが公務員のバカンス懸賞で当てたもので、父子水入らずの本格的な旅行を楽しんでいる。
二人が出かけた後、マンションの一階にあるバーでテキーラを飲みながらダニエルに電話した。「〈プル〉で飲んでるのか?」「来るの? 来ないの?」「落ち着けよ、モーリン。いまから向かう」。
翌朝モーリンが出勤前にプールで泳いでいると、携帯電話がなっていると側にいる人に注意される。同僚のゼケからで事件発生の知らせだった。「公園のベンチに裸の女が座っている。なにか恐ろしいことが起きたようで」と警察署の受付に電話があったという。
シャワーも浴びずに着替えて現場の緑地公園へ行くと、制服警官と救急隊員と毛布に包まれた若い女性が見えた。どうやらレイプされたようだと警官が言う。ベンチに座らされた少女は口をきかない。見ているようにと指示したのに救急隊員が席を立ったとき、少女は全裸のままふらふらと歩いてブランコをこぎはじめた。
(久山葉子訳 創元推理文庫 1040円+税)