1845年のニューヨーク、混沌とした街にアイルランドその他の移民があふれ、犯罪が横行している。真面目な美青年ティモシー(ティム)・ワイルドはバーテンをしてお金を貯めていたが火事ですべてを失い顔に大火傷を負う。兄のヴァルはその顔でバーテンは無理だろうと、創設されたばかりのニューヨーク市の警官になるように勧める。彼はパン屋の2階に部屋を見つけて働きはじめた。第六区の警官は55人の寄せ集めの与太者からなっていた。事務官に星の形をした銅の徽章をもらい街へ出る。ティムは火傷の痕を覆面で隠す。かろうじて目は見えている。
三週間後、ティムは夜の街を歩いていて血まみれのネグリジェ姿の少女バードとぶつかる。バードの言葉から捜すと胴体を十字に切り裂かれた少年の遺体が見つかる。続いて見つかった遺体は19人になった。
ヴァルはマーシーを見つけて聞け。だれがアイルランドの少年たちをロブスターみたいに切り裂いたか突き止めろと言う。
マーシーの家の側へ来たとき、火事で廃墟になった場所が見える。いくつかの建物の修理が始まっていた。「どの神を信じるにしろ、俺たちは進み続けるんだ」とティムは考える。
マーシーは慈善活動をしている美しく頭の良い自由な女性で小説を書いている。彼女を愛するようになったティムだが、事件を調べているうちに彼女のもう一つの面が見えてきた。
バードはティムとパン屋の女主人になつくようになり、ティムは彼女のこれからを考えて、学校へ行かすことにする。
あまりにもひどい事件なので途中で読むのをやめたが、もう一度最初から読み直した。
ニューヨークとそこに住む人たちの姿が荒っぽさのなかに描かれている。
マーシー・アンダーヒルを想うティムのこころがいじらしい。
アイルランド移民がニューヨークに着く映画にトム・クルーズとニコール・キッドマンの「遥かなる大地へ」があった。1892年のこととなっているから、半世紀後のことか。
もういっこ、ニューヨークの街を立派な馬車が走るイーディス・ウォートンの小説「エイジ・オブ・イノセンス」と映画化された「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」を思い出した。1870年代だから四半世紀後ね。
本書は出る前から読みたいと言っていたのを、友人がいち早く買って読みまわしてくれた。Yさん、ありがとう。
(野口百合子訳 創元推理文庫 上880円+税、下920円+税)