レジナルド・ヒルの『ベウラの頂』は何度読んでもすごい

テーブルの横の本棚には何度でも読みたくなる本を置いてあって、ご飯を食べた後になにか読みたいなと思ったらすぐに手に取れる。レジナルド・ヒルの本は全部ここにあって、ひととおり読んだらまた読みたくなるのだが、特に好きなのが数冊あって、「ベウラの頂」はその中でも好きな1冊なのだ。

少女が行方不明との知らせが中部ヨークシャー警察のダルジール警視にとどいた。いまから15年前の未解決事件が心に甦る。15年前、ダム工事のために湖に沈む村で3人の少女が行方不明になり、必死の捜査をしたが少女たちの行方はわからなかった。重要容疑者の青年ペニーも姿を消したままだ。

村人が移り住んだ町で再び起きた事件。町のあちこちに「ペニーが帰ってきた」という落書きが見つかった。
あのときはパスコー主任警部はいなくて、ダルジールとウィールド部長刑事が関わったのだが、ダルジールは事件を忘れることはなかった。

行方不明の3人のあとにベッツィが襲われるが逃れることができた。
ベッツィは両親と3人家族だったが、母が薬の過剰服用で亡くなり、そのあと父はポケットに石を入れて入水自殺した。残されたベッツィは金持ちの親戚ウルフスタン夫妻に引き取られて成長する。ウルフスタンの娘メアリーは行方不明の3人のうちの一人だった。太った黒髪のベッツィは金髪の美少女メアリーのような娘になりたくて、神経性無食欲症になり、髪を漂白しようとして失敗し丸坊主になってしまう。ウルフスタンは一流の精神科医にベッツィを診てもらう。

太ったベッツィは15年後のいま、金髪のかつらをかぶり美しい容姿と見事な声に恵まれて、新進のクラシック歌手エリザベス・ウルフスタンとして前途洋々たるものがある。

毎年の夏休みにこの村でウルフスタン主催で音楽祭が催される。今年はエリザベス・ウルフスタンのマーラーの〈キンダートーテンリーダー、亡き子を偲ぶ歌〉が中心になる。

今度は絶対に捕まえるとダルジールは決意している。村を訪れるとまた今回も失敗するだろうと冷たいまなざしにあう。こどもを失った夫婦の様子が痛々しい。彼らも音楽祭にやってくる。
(秋津知子訳 ハヤカワポケットミステリ 1800円+税)