メアリ・バログ『麗しのワルツは夏の香り』(3)

読んでいてふと気がついた一節。
キャサリンとジャスパーの会話。
【「あなたに恋はしてないし、これから先、微細な破片のそのまた破片ぐらいの恋心を抱くこともありえないわ、ジャスパー」キャサリンは言った。しかし、彼に軽く笑いかけていた。ジャスパーは自分の胸に片手をあてた。
「微細な破片のそのまた破片……」と言った。「どういう形をしてるのか、いま想像してみてるんだが、肉眼で観察できるものであればね。ひと粒の砂のようなもの? “ひと粒の砂に世界を見る”のかな?」
この人、ウィリアム・ブレイクを引用している。夢なんてぜんぜん持たない人に、どうしてあんな燦然たる神秘的な詩が理解できるの?】

長い引用をしたが、このあとの会話がとてもよい。
しかし、ロマンス小説にブレイクの詩が出てくるとは。
ウィリアム・ブレイクの生涯は1757年から1827年である。リージェンシー時代は1811年から20年にかけてだから、ブレイクと時代が重なる。ブレイクは不遇のうちに亡くなったとはいえ、読んでいるひとは読んでいたのね。そして、教養あるキャサリンは申すに及ばず、放蕩者のジャスパーもほんとは真面目なひとだったのね。なぜ放蕩な生活に走ったかの説明があって納得。
以上が今日の感慨です。
(山本やよい訳 原書房ライムブックス 933円+税)