木村二郎「残酷なチョコレート」

封筒から出したらすごくおしゃれなハードカバーで、帯に「職業、私立探偵。依頼の件はオフィスで聞こう。」とあるのがカッコいい。
読み終えてから気がついたのだが、カバーの写真が〈マンハッタンヘンジ〉みたいだ。ほんまにいま気がついたところ(笑)。ウィキペディアに「ニューヨーク市マンハッタン区の碁盤の目状の大通りの東西方向の通りにちょうど沿って太陽が沈むとういう一年に二回起こる現象である。」とある。本書の中の「この母にしてこの息子あり」に〈マンハッタンヘンジ〉の写真が部屋にかけてあるというところがあって気がついた。

雑誌「ミステリーズ!」に掲載された「永遠の恋人」「タイガー・タトゥーの女」「残酷なチョコレート」の3作を読んで感想を書いたのが当ブログに入れてある。
あと2作「バケツ一杯の死」「血は水より危険」を読んでいなかったのが残念だが本書で読めた。それに書き下ろしの2作「ツインクル、ツインクル」「この母にしてこの息子あり」が入っている。
(その他に女性探偵フィリスが活躍する「偶然の殺人者」があるのを忘れないように書いておく。)
いつものお気に入りの本と同じく、さっと読んでしまってからもう一度ゆっくり読んだ。

わたしは外国語ができないので翻訳にたよって読書している。家にあったのは童話のようなものでも翻訳ものであった。それが幼年時から続いていていまも同じくで主に翻訳ミステリを愛読している。日本語のミステリを友人がたまに貸してくれるが最後まで読み進めない(池波正太郎だけは別)。そんなわけで日本語で読んでいるんだけど、ヨークシャーだったりデンマークだったり、ニューヨークだったりするのを楽しんでいる。わたし以上に楽しんでいるひとはいるかなと思うくらい(笑)。
木村さんの小説は翻訳もの感覚で読めるということも好きの原因だと思う。それも直訳みたいなところが好きである。

それぞれの作品の前にマンハッタンの地図がある。作品ごとに出てくる場所が記入してあって親切だ。ヴェニス探偵事務所、恋人のグウェンと住んでいるアパート、グウェンの仕事場を地図で見てなんだか安心する(笑)。この距離だとタクシーかなんて思ったり。

「残酷なチョコレート」を読んだとき(2011年12月)の感想にはヴェニスは55歳を越えていると書いた。今回はミステリー作家の友人ジェイク・ヘイウッドを、おれより少し年下と書いている。その後にジェイクは60歳前後と書いているから、ヴェニスは60歳を少し越えたようだ。
仕事を終えて家に帰ったときのグウェンの迎え方やふたりの接し方は長いつきあいの夫婦だと思うけど、ヴァレンタインズ・デイ・プレゼントにバラを贈るのに、ちょっと玄関に置いていたり、いい感じ。

ヴェニスだけでなく他の登場人物のオーディオやラジオやiPadからジャズが流れる。きちんと曲名とミュージシャン名が書かれていてその人間を知る助けになる。ふたりが食後に見るDVDも古い趣味のよいハリウッド映画だ。テレビを見ているシーンがないのもいい。
(東京創元社 1900円+税)