ルース・レンデル「街への鍵」

わたしのイギリスミステリーの好みは子どものときからひたすらドロシー・L・セイヤーズだった。アガサ・クリスティはかなり読んだがなぜか好きになれなかった。わりと最近になって(といっても10年以上経つが)ジョセフィン・ティ、コリン・デクスター、エドマンド・クリスピン、そしてイアン・ランキン、それから読み始めは遅かったが翻訳されたのは全部読んでいるP・D・ジェイムズが好きな作家リストに入る。
ルース・レンデルはとても好きだとは言えず、どこかイケズなところがいやで敬遠気味だった。イケズって何度も書いている(笑)。好き嫌いをいうほど読んでないのにも気がついた。友人がこれは良いとあげた本をわたしは読んでなかった!

今回「街への鍵」はわたしのいままでのレンデル感がくつがえった感じ。広く深いロンドンの公園がものすごく魅力的に描かれている。観光旅行でロンドンへ行ったってこのレンデルの描く魅力ある公園を知ることはできないはず。

主人公の一人ローマンは妻子を事故で亡くし、絶望の末に住まいと出版社の仕事を捨ててロンドンの公園でホームレスになる。お金は銀行に預けたのをATMで出せるし、洗濯はコインランドリーがある。食料品はスーパーで買える。彼は古書店で買った本を読むのを楽しみにしつつ暮らす。周囲の出来事から目をそらさないで2年が経とうとしている。

もう一人の主人公メアリはアイリーン・アドラー博物館(もちろん架空)で働いている儚いような美貌の持ち主である。彼女は白血病患者のために骨髄を提供した。彼女がつきあっているアリステアは骨髄を提供するときに体についた小さな痕があるのを許さない身勝手な男で、メアリは別れようと思う。彼女は骨髄を提供した相手に会うことにした。

公園にはいろんなホームレスがおりさまざまな人生を生きてきていることが活写される。
毎朝、数匹の犬の散歩を請け負って公園を散歩する老人がいて、預ける側の人間の様子も描かれる。
いまメアリは知り合いの老夫妻が旅行するので、そのあいだ留守を預かり犬の面倒も見ている。両親はおらず祖母がいて可愛がって育てられた。

男につけられているメアリをローマンは助けようと思う。メアリが毎朝の犬の散歩で公園に行くので二人は挨拶するようになっていたのだ。

人間関係もいろいろあるのだが、この作品は〈ロンドンの公園〉の魅力で、二度も三度も読むと思う。これからは好きなイギリスの作家の中に入れる。
(山本やよい訳 ハヤカワポケットミステリ 1900円+税)