イーヴリン・ウォー『回想のブライズヘッド 上下』(1)

久しぶりの岩波文庫は文字が大きく行間も広くて読みやすかった。イギリスの作家というだけで、タイトルしか知らなかった本が、単純な物語ではないが、大好きなイギリスのお屋敷ものだった。イーヴリン・ウォー(1903-1966)の1960年の刊行された本で、解説には「彼の代表作として定評のある突出した名作」とあった。おもしろく読んで二回目を読んでいるところ。

〈序章ブライズヘッドふたたび〉第二次大戦で軍務についた39歳の〈わたし〉チャールズ・ライダーは、中隊長として屈強で希望にあふれた一中隊を率いていた。グラスゴー市のいちばんはずれにある宿営地にいたのだが、だんだんやる気がそがれていく。
中隊が列車で次の宿営地に移動することになる。トラックに乗り換えて着いたところで「ここは何という所だ」と部下に聞く。なつかしい名前が答えられる。「ここには前に来たことがある」と〈わたし〉は言う。
〈第一部 われもまたアルカディアにありき〉は、註に「すべて知っているという意味もあって墓碑銘に用いる」とあった。再読して納得。
回想がはじまる。20年以上前の6月にセバスチャンとここへ来たのが最初だった。
〈わたし〉はオクスフォードのコレッジの角部屋に住んでいた。酔っぱらったセバスチャンが窓から顔を入れて嘔吐する。それが縁でふたりはつきあい始める。20年以上前の6月のある日、どこへ行くとも言わずに車を走らせ、途中で休んでワインとイチゴを楽しみ、着いたのがセバスチャンの家族が住むブライズヘッドの侯爵家のお屋敷だった。
それから何度ここを訪れたことだろう。セバスチャンには母と兄と妹がふたりいて、父は別居している。
(小野寺健訳 岩波文庫 上700円+税、下760円+税)