ブライアン・オールディズ『地球の長い午後』

今月のはじめに見た衝撃的な映画、キース・フルトン &ルイス・ペペ監督「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」の原作者がSFの名作「地球の長い午後」を書いたブライアン・オールディズだという。わたしは作家も作品も知らなかったが、相方が自分のSFの棚から出してくれた。1961年の作品。
そんなことを当日記とツイッターに書いたら、SFファンのK氏から「僕が読まずに置いてあるサラ・パレツキーの「サマータイム・ブルース」を読むから、kumikoさんは「地球の長い午後」を読んでください」と返信があった。
SFをほとんど読まない(K氏はハードボイルドをほとんど読まない)わたしだが、数日かけて読み終った。

いまからずっと未来の地球は〈熱、光、湿度(しとり)〉の温室のようで、植物が異様にひろがっている。18人のグループが枝からぶらさがった18個の家胡桃(いえくるみ)にそれぞれ住んでいる。いま子供の一人が緑に落ちて死んだ。リーダーのリリヨーは責任を感じる。死んだ子供の魂を〈頂〉に持って行き、帰ったら成長した子供たちと別れることになる。
【子供たちには、ほかのグループに合流するまで自分たちの力で身を守らなければならない孤独と苦難の年月がやってくる。そして、老年期に入ったおとなたちは、審判と死を迎えるために、誰も知らない〈天〉に向かって船出するのだ。】

子供グループの中でいちばん活発なグレンは命令に従うのが大嫌いでのけ者になるが、グレンを好きなポイリーだけがいっしょに行動する。
グレンの頭の上になにか落ちてきたと思ったらアミガサタケだった。アミガサタケはグレンの頭の中の忘れられた屋根裏に居ついて話しかける。それからずっとアミガサタケはグレンの体の中に住んで語りかけ、グレンの行動を支配するようになる。

そこまで読んだら、目配りが細部までいきわたり丁寧に読めば読むほど楽しめるって感じがしてきた。そこへどかんとこんな文章に出くわした。
【アミガサダケは太陽が破壊的な活動の段階をむかえ、地球の温度が上昇をはじめた時代を見せた。工学技術に信頼をおいていた人類は、この緊急事態を乗り切る準備にとりかかった。(中略)準備は進んだ。しかし、それとともに、人びとは病気でつぎつぎと倒れはじめた。太陽から送り出されてくる新しい病気、放射線が原因だった。この奇妙な病気はじょじょに全人類にひろがっていった。それは、彼らの皮膚を、目を——頭脳を侵した。長い苦しみの後に、彼らは放射線からの免疫性を獲得した。彼らはベッドから這い出した。しかし何かが変わっていた。命令し、思考し、闘う能力を失っていたのだ。】
「放射線」を「放射能」と言い換えても通るのではないかしら。

植物が異様に繁殖し、わけのわからない虫たちがのさばる世界。そこにも愛が育ち子供が生まれる。
最後までおもしろい小説だった。
(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫)