フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』

去年の「ミステリーズ」に出た2編とエッセイを読んですごい作家が出てきたと思った。すぐに短編集が出たのを買って読んだ。
今回の「罪悪」も同じく短編集である。今年のはじめに出たのに買ってから半年以上も本棚に「犯罪」と並んでいた。いつも新刊はすぐに読み出すのに、楽しみにとっておいた感じ。いいのはわかってるんやから楽しみにおいとこ(笑)。
半月ほど前から一編ずつを毎晩読んでいったが、犯罪の内容が恐ろしくて寝る前に読むとちょっときつかった。それでまたしばらくおき、早めの時間に読むことにして、ようやく読み終った。

すべて弁護士の「私」が担当した事件の話である。
最初の「ふるさと祭り」では、若い娘が祭りのさなかに集団の男たちにひどいはずかしめと暴行を受けた事件で、被疑者たちについた9人の弁護士の中に、若い「私」が学友とともに加わる。被疑者たちが黙秘し、警察や病院の捜査や犯罪への対応が悪くて、捜査判事が逮捕令状を撤回したため被疑者らは釈放される。彼らはまっとうな生活にもどっていった。
被害者の娘の父親はただ法律家たちが歩いて行くのを眺めているだけだった。
【家に向かう車中、互いに顔を見ることなく、あの娘とまっとうな男たちのことに思いを馳せた。私たちは大人になったのだ。列車を降りたとき、この先、二度と物事を簡単には済ませられないだろうと自覚した。】

こうして大人になった「私」はさまざまな事件をこなしていく。
優しい男だと思ったのに結婚してから暴力をふるわれ傷だらけの妻は、娘が年頃になったら自分のものにするという夫を殺す。隣家の男の暴行による少女の妊娠。学校での虐めのエスカレートで死ぬほどの暴力を受けた少年。湖畔の村で知り合った男は成功者だったが・・・。
最後の「私」が精神科に連れて行った男がいうセリフにおどろき笑った。そこで「私」とはフェルディナント・フォン・シーラッハだとわかる。
(酒寄進一訳 東京創元社 1800円+税)