小津安二郎監督「晩春」

「晩春」は1949年の作品で、ずっと公開時に見たと思いこんでいたが、49年に見たはずがない。いったいいつ見たのだろう。ベ平連のころより先か後か、全然わからん。一人で見に行ったのはたしか。そうだ!「東京物語」(1953)を見たあとだ。「東京物語」が評判良かったので小津特集とかやったのかな。

独り者の父(笠智衆)と結婚の決まった娘紀子(原節子)の二人が京都へ旅して旅館で枕を並べて眠るシーンに驚いたのをいまも覚えている。それこそ、紀子が叔父の再婚に「不潔!」と言った以上だと思ったものだ。もっとも、紀子は間違ったことを言ったと自分の結婚が決まってから後悔していたが。

能楽堂のシーンはよく覚えている。のちに梅若万三郎さんの「杜若」を産経観世能で見たことがあるのだが、晩年の万三郎さんが素晴らしかった。
能を見ながら父は再婚話の相手に目礼する。それを見た紀子の嫉妬心が能面のような表情の下に見え隠れする。