四方田犬彦『ひと皿の記憶 食神、世界をめぐる』

四方田さんの本を何冊か読んだがいろんな事柄について関心の広さ・深さに感心するしかない。四方田さんの人物紹介を読むと、学問や映画など文化部門の最後に「食」がある。そうだ!次は「食」についての本を読もうと思って選んだのが本書である。文庫でぎっしりと文字が詰まっているがとても読みやすかった。カバー絵も楽しい。

子どものときに祖父母に連れられていった奥能勢の鮎料理からはじまる食の話に惹きつけられた。日本の食についてから自由自在に広がる韓国や東南アジアで現地の人々と同じ食卓を囲んで食べた辛い料理の数々について。ピョンヤンで食べた朝食の話に感動した。
イタリアでは料理を習うためではなく料理学校に通う。そしてイタリア各都市のうまいもの(例えばナポリの蛸)から話はロンドンにとび、ロンドンの鰻を食べる話。オスロではいちばんいい季節と言われて鱈を食べる。
最後はフランスで、パリの朝市の話からはじまり、ボルドーではかのフォワグラを食べ、そしてフォワグラを買って新幹線でパリのアパートへ帰り、店で聞いたやり方で料理する。そのあとはプルターニュのクレープから出雲の蕎麦粉へと話題は広がる。

あまりにも広範囲なので話題についていくので必死(笑)。ひとつだけよくわかったのはビーツ!! 笑った!! パリの朝市は野菜が豊富。アーティチョーク、ミント、トマト、葱、ビーツについてコメントがある。笑えたのはビーツを食べ過ぎて便が赤黒くなったという話だ。大学病院で診てもらってビーツのせいとわかってほっとしたって。谷崎潤一郎も同じような目にあったとエッセイに書いているって。
(ちくま文庫 840円+税)