小津安二郎監督「秋刀魚の味」

「秋刀魚の味」(1962)は小津安二郎監督の最後の作品である。小津安二郎は1962年60歳の誕生日に亡くなった。
小津の作品をあまり見ていないまま岡田茉莉子の自伝や吉田喜重の「小津安二郎の反映画」を読んだので頭でっかちになっている。これはいかんとチャンスがあれば見ていこうと思い、今夜「秋刀魚の味」を見た。

先日見た「秋日和」とほとんど同じシチュエーションで、年頃の娘路子(岩下志麻)と次男と暮らす父(笠智衆)を中心に中村伸郎、北竜二が元同級生で飲み仲間。彼らは仲が良くよく飲みよくしゃべる。昔の先生を囲んでの飲み会があり、送っていくと先生は下町でラーメン屋をやっており、いかず後家の娘(杉村春子)がいる。ラーメンを食べに来た客が戦争に行ったときの部下だった。彼に連れられて行ったトリスバーでその店の女性(岸田今日子)に亡き妻の面影を見る。
杉村春子と岸田今日子が絶品。

友人達は先生親子のようにならないように早く娘を嫁にやるように忠告する。
長男(佐田啓二)と嫁(岡田茉莉子)は共稼ぎでアパートに住んでいる。ゴルフ道具が欲しくてたまらない夫を妻は牽制するが、会社の同僚(吉田輝雄)からのセットを月賦で支払うことにする。
路子は吉田に好意を持つが、つねづね結婚する気がないと言っているので、彼は違う女性と結婚の約束をしてしまう。

その後路子は父親の友人の紹介で結婚することになり花嫁姿で家を出るシーンにつながる。
結婚式を終えた笠智衆は中村伸郎宅で飲んでいたが一人よろよろと立ち上がる。トリスバーに行く哀愁のこもった姿が絶品。家で式服のままでじっと待っている長男夫婦。寝間着姿の次男は父親の顔を見るとほっとして「おれは寝るよ」。