サラ・パレツキー『アンサンブル』(3)

第三部「ボーナス・トラック」には去年(2011年)の11月に刊行されたアンソロジーのために書かれた作品「ポスター・チャイルド」が入っている。ヴィク・シリーズでなじみのフィンチレー警部補が出てくるのがうれしい。

湖畔には霧が立ちこめていてジョギングやサイクリングの連中が前を通っているのに気づかれず、死後1時間も経ってから男の死体が湖畔のベンチで発見された。男は顔面を強打されて眼球がつぶれていた。口からはみ出ているのは中絶反対のチラシを丸めたものだ。
フィンチレー警部補が連絡を受けたときはまだ被害者が有名人であることがわからなかった。それでベテラン刑事ではなく、怠け者のビリングズと新米のリズ・マーチェクの二人組を現場へ行かせる。

被害者は中絶推進派を激しく攻撃しているカルヴァーだった。中絶に反対するアメリカ国内の教会の潤沢な資金を後ろ盾にし、リベラルなクリニックにヘリから爆弾を投下したり、リベラルな考えのクリニックのスタッフの子どもたちをつけまわすなどの活動を続けている。
今回も活動中でドクターがタクシーから降りて船に乗るときに、連れていた子どもに中絶反対のチラシを渡させる。そのチラシをドクターはカルヴァーの顔に投げ返した。ドクターは警察に連れていかれる。

リズは祖父母に育てられたユダヤ系アメリカ人で、7年間パトロールの仕事をしてから刑事試験に合格した。祖父は彼女を〈アナーキスト刑事〉と呼んでいる。
懐かしきフィンチレー警部補はリズが単独行動をとったときに「きみがV・I・ウォーショースキーになったつもりで・・・」と注意する。笑えるシーンだ。リズはそのときヴィクを知らないのだが(もしかして次の長編にリズが出てくるかも)。
アメリカの現在の状況がわかる一編。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 900円+税)