レジナルド・ヒル『骨と沈黙』(2)

ダルジールは自分が目にしたのは自殺ではなく殺人だったという確信をもって聞き込みや捜査を続けている。続けて事故死とされる死があり行方不明者もいることがわかる。

パスコーは建設業者スウェインの事務所へ聞き込みに行く。事務机の前に若い女性が座っていた。机の上には読みかけの本、表紙は〈活劇調ロマンス小説〉風だがタイトルは「ジェーン・エア」が置いてあった。角張った顔立ちで太っていて化粧気がなくハスキーな声にはヨークシャー訛がある。シャーリーはスウェインの共同経営者の娘でまだ19歳だが子どもがいる。いろいろと話しを聞いたあとにパスコーは、
【「・・・純愛の力をもし信じないんなら、あなたは本の選択を誤ったんじゃないかな」彼女は読みさしの『ジェーン・エア』を手にとった。「つまり、ハッピー・エンドで終わるってこと?」彼女はいった。失望したような声だった。「残念ながらね。不幸な結末がいいんなら、男性作家の本を読まなきゃ」パスコーはちょっとからかうようにいった。】

パスコーはダルジールの捜査に加わりつつも、謎の女〈黒婦人〉からダルジール宛に届いた手紙が気になってファイルを調べる。この件で相談した精神科医のポットルは、前作で大けがの経験したパスコーの心理を大切にするようにいう。
【「・・・それに人を助ける上でも役に立つ。たとえば、この黒婦人を、きみは自分で思っている以上に、彼女の抱えているような暗黒を知っているかもしれない」】という。

最後の最後まで必死に〈黒婦人〉を探すパスコー。思い当たる女性を追って無作法をかえりみず走る。シャーリーもその一人として追うのだが、逆境を生きる強さを見せられる。
【彼女は急いで立ち去った。それは、愛し、耐える能力のある、そして、無惨きわまる絶望を越えてなおも生きつづけようとする意思のある、生命力あふれる、強い、若い女性の姿だった。】

そして、最後に見つけ出した〈黒婦人〉は、思いもよらぬ女性だった。
シャーリーが愛おしい。太めと化粧気がないところがわたしと似ているからだけでなく(笑)。今回はエリーよりもシャーリー。
(秋津知子訳 ハヤカワ文庫 1000円+税)