アン・クリーヴス『野兎を悼む春』(1)

アン・クリーブスの「野兎を悼む春」を読み出した。その前に読む本があるのに、買ったときにちらっと読んだら離せなくなった。「大鴉の啼く冬」「白夜に惑う夏」に続く〈シェトランド四重奏〉の第三章である。前の2作は図書館で借りて読んだ。今回は翻訳が出るのを待って買ってきた。

最初に出てくるのが老女のミマなんだけど、彼女はすごく小柄で洗濯物を干すのに背伸びしないと洗濯紐に届かない。華奢で軽そうで強風にさらされて海に飛ばされそう。ミマはシェトランド署のサンディ・ウィルソン刑事の祖母である。彼女を訪ねてきたサンディはこともあろうにミマの死体の第一発見者になってしまった。こんなに楽しそうに書かれている女性がすぐに死んでしまうなんて。でも、過去形でも彼女がしきたりなどにとらわれず、したい放題してきたことがわかって楽しい。
そして前回に続きジミー・ペレス警部が登場。彼の恋人フランはいま読んでいるところでは、電話とペレスの心の中にたびたび登場する。

シェトランド諸島の地図を見ながら楽しんでいる。スコットランド北方沖に浮かぶ100以上の島からなるシェトランド諸島は北欧にも近い。スウェーデンのヘニング・マンケルの作品は緊張したまま突っ走り、ヴァランダー刑事は高い血圧と血糖値でよれよれの体で犯人を追いかける。犯罪も高度に発展した資本主義社会から生まれたものだ。本書のほうは資本主義といってもまだ農業や漁業と手仕事の世界である。読むほうも血圧があがる心配は無用。
(玉木亨訳 創元推理文庫 1300円+税)