ヘニング・マンケル『背後の足音 上下』(2)

ローズマリーとマッツは毎週日曜日に自然の中を散策するのを楽しみにしていた。彼らはその日、ハーゲスタの自然保護区に行くことにしてきちんと計画をたて、車にリュックと雨具を積んで出発した。平地を見つけて朝食を食べローズマリーは敷物の上に横になった。マッツは用を足しに茂みに入るが、そこで見つけたのは三体の遺体だった。
ヴァランダーとマーティソンは額を打ち抜かれ腐乱しかかっている遺体を見て言葉を失う。ヴァランダー「いまはどんな無理なことでも、やらなくちゃならないんだ」。この若者たちを家に連れ帰ることができなかったという思いが彼をさいなむ。

発見されたとき3人の若者たちはパーティをしている状態だった。鑑識課のニーベリは、遺体その他はどこか別のところに保管してあったはずだ、発見者がおととい散策に行っていたら見つけてないという。丹念な捜査で遺体が置いてあった場所がわかる。穴は4体入る大きさだった。

病気でミッドサマーイブに参加できなかったイーサが自殺しようとしたところをヴァランダーは助ける。親にかまわれない孤独な娘にパーティのことなど聞きだすが、イーサは病院を抜け出す。ヴァランダーは彼女を捜してペルンスー島へ渡る。島の郵便配達人ヴェスティンのボートに乗せてもらうが彼と話していると疲れがとれていくような気がする。イーサはこの島にある家におり、二人は長い時間話し合って気持ちよくそれぞれの寝室に引き上げるが、翌朝イーサは黙って家を出ている。島を探すとパジャマ姿で岩陰にもたれて射たれていた。

この本を読む直前にノルウェーで連続テロ事件があった。本書は1997年に書かれている。
マーティソン刑事の言葉。
【でも、時代が変わったんです。われわれの気づかないうちにスウェーデンは変わったんです。暴力は自然なものになったんです。われわれは気づかないうちに見えない一線を越えてしまったんです。若い世代はみんな確固たる地盤を失ってしまった。もはや彼らになにが正しいか、なにが間違いかを教える者がいないんです。】

事件が終わってヴァランダーの思い。
【ヴァランダーの前には、頭がおかしくなって、どこにも居場所が見つけられず、最後には彼自身制御できなかった暴力を爆発された男が座っていた。精神鑑定で判明したことがもっとあった。家族にもネグレストされた子で、なにか問題につきあたったら隠れて避けることしかできなかった。そして笑っている人間に耐えられなかった。】
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1200円+税)