大橋鎮子『暮らしの手帖とわたし』

Sさんが貸してくださった本。このタイトル見てなんか懐かしい言い回しだと思った。「○○○とわたし」というアメリカの小説か映画のタイトルだと思うけど出てこない。「タマゴとわたし」? ちがうかな。

我が家には早くから「暮しの手帖」があった。わたしはその他の雑誌と同じく読むだけだったが、上の姉が結婚してからは生活の指針みたいな感じになっていたみたい。「暮しの手帖」のテストに合格した電気製品を買う暮らし(笑)。布巾まで「暮しの手帖」ご推薦だった。ステンレスの流し台もだ。
月に一度は姉の家に行って「暮しの手帖」と「ミセス」を読んでいた。「簡単にできるおかずの本」というような料理本をもらって、麻婆豆腐の作り方を覚えた。楽しかったのは石井好子さんの「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」で、この本は自分で買った。

本書は花森安治さんとともに暮しの手帖社を最初からやってきて、いまは社主の大橋鎮子さんの自伝である。1920年生まれだから本書を出版した去年は90歳。バイタリティに圧倒される。
父親が結核で早く亡くなり、母親が長女の鎮子さんをたてて戸主としたせいか、子どものときから母親と二人の妹の面倒をみなければという意識が強かった。えらいのは気持ちだけでなくちゃんと実践したことである。
どこへでも堂々と行くし、だれとでも堂々と話すし、若いときだってお金を出してやろうという人が出てくる。そして勤めていた銀行と新聞社の人脈を活かす。
原稿をもらいに何度も行ったとか、台所の写真を撮りたいために見知らぬ家を訪ねて雑談からはじめて依頼したとか、やすやすとしたという印象を受ける文章だけど、どんなに大変なことか。

過去の記事や写真もたくさんあって、懐かしく楽しく読ませていただきました。
(暮らしの手帖社 1714円+税)