『フォン・シーラッハのベルリン讃歌』

おととい書いたフェルディナント・フォン・シーラッハの短編小説2編とともに「ミステリーズ!」にあった「フォン・シーラッハのベルリン讃歌」に惹きつけられた。2011年1月11日の「ベルリン新聞」に掲載されたものである。

シーラッハの「犯罪」は評判になりいろいろな賞を受賞したが、「ベルリン新聞」が主催するその年に活躍した文化人が選ばれる〈ベルリンの熊賞〉の文学部門でも受賞した(この賞は過去にバレンボイム、ニーナ・ハーゲン、ヘルムート・ニュートンも受賞している)。
そのときに彼が「ベルリン新聞」に寄稿したのがこの「フォン・シーラッハのベルリン讃歌」である。

実は木村二郎さんの他におもしろい読みものはないかとページをめくっていて見つけた「ベルリン讃歌」の文字。わたしはなぜかベルリンが好き。行ったことはないけど・・・。というわけで作品よりもさきに読んだ。しかも最後をさきに読んでしまった。そして、すげえ! ええこというてる、と感服して最初から読んだ。

「私は黒い森のイエズス会寄宿学校で育ちました。」から文章がはじまるのだが、その学校の先生である神父についての話があり、変な宿題を出したと回想する。ある日、彼は使い古しの皮のカバンを持ってきて「この中に自由の本質が入っている・・・」次の週までなにが入っているか考えるようにいう。
カバンを見せた日と開いた日の記述のあいだにシーラッハはベルリンについて書いている。〈五百を超す教会とヨーロッパ最大の刑務所〉〈人々は雪に文句をいい、夏にケチをつける〉の見出しで簡潔にベルリンのこと、住民のことを説明している。

次の週に神父はカバンから棚から出してゆっくりと開ける。中には派手な色合いの大衆紙が入っていた。神父は大真面目にいった。「決して忘れてはいけない。これこそ、自由の本質である」。
(「ミステリーズ!」2011年4月号 東京創元社 1200円+税)