フェルディナント・フォン・シーラッハの短編小説2編

木村二郎さんの私立探偵小説を読むつもりで買った「ミステリーズ!」4月号に掘り出し物があった。フェルディナント・フォン・シーラッハの短編小説「棘」と「タナタ氏の茶碗」(「わん」の字が難しいので「ミステリーズ!」のサイトを見たらやっぱり「茶碗」になっていた)の2編。
ドイツのミステリということで、以前読んで感想を書いた「ベルリン・ノワール」を開いてみたが、この本には入っていない人だった。
それで訳者の解説を読むと、6月に東京創元社から刊行予定の「犯罪」(邦題)は、F・V・シーラッハの最初の本でありドイツで大ベストセラーになり、32カ国以上の国で翻訳が決定しているそうだ。全編に「私」という弁護士が出てくるが、本書を書くまでシーラッハ自身が刑事事件の弁護士であった。

「棘」は美術館で長らく働いてきた男性の話で「棘を抜く少年」という彫刻に魅せられていく過程がおそろしい。心理的に追いつめられた男はその彫刻を壊す。彼の弁護士になった「私」は裁判官と検察官と話し合う。
「タナタ氏の茶碗」は日本人の実業家タナタ氏が所有する骨董の茶碗盗難の話。犯罪者の性格、そして犯罪のやりかた、殺しかたなどリアルな描写がおそろしいほど。茶碗を返すために弁護士の「私」はタナタ邸を訪れる。
タナタ氏は、この茶碗は長次郎によって1581年にタナタ一族のために作られたと説明。「かつてこの茶碗がもとで争いが起こったことがある。今回は早々に解決してよかった」と言う。半年後にタナタ氏は他界し遺体は日本へ送られた。茶碗はいま東京にあるタナタ財団美術館の目玉になっている。

シーラッハは〈ベルリンの熊賞〉を受賞したときに「ベルリン新聞」にエッセイ「フェルディナント・フォン・シーラッハのベルリン讃歌」を書いた。このうしろのページにあるのだが、とても感じがいいのだ。次はそのことについて書く。
(「ミステリーズ!」2011年4月号 東京創元社 1200円+税)