ケイト・モートン『忘れられた花園 上下』(2)

ネルはヒューに発見されたとき白い子ども用トランクを持っていた。トランクは船上で知り合った子どもたちの親が開き、封筒に入った紙幣を盗む。ネルを見つけたヒューはトランクを隠したままだったが死ぬ前にネルの手にもどした。開けると着替えなどの下に1冊の絵本(イライザ・メイクピース作のお伽噺)が入っていた。
そのトランクをネルの孫娘のカサンドラが子どものときに見つけたことがあった。ネルが亡くなってから家を捜し見つけ出す。このトランクで葬儀のあとにネルの妹たちから21歳からのネルの変化を聞いていたのを納得できた。ネルの過去がつまったトランク。

ネルの死後、ネルと親しかったベンが封筒を持って訪れる。家や預金をカサンドラに遺すという他にイギリスのコテージを遺すという遺言状が入っていた。
ネルがイギリスを訪れてそのコテージを見ているときに、庭園で小さな少年がひとり遊んでいた。母を癌で亡くしたばかりのクリスチャンである。ネルはまた訪れるまでこの庭を守っていてねと頼むがまた訪れることはなかった。

カサンドラが木を切るのに庭師を頼むと親方の兄とやってきたのがクリスチャンだった。静かな彼はできるだけ毎日来て手伝うという。
カサンドラはネルのメモを精読し、図書館で調べ、イザベラのいとこで邸宅の令嬢ローズと夫の画家ナサニエルがネルの親と思う。しかし、実はもっと複雑な事情があった。

ネルのあとを継いだカサンドラによって、さまざまな葛藤が解けていく。そして隠されていた庭園が受け継がれ息づいていく。

過去と現在が交錯する物語は「抱擁」を思わせるし、お屋敷は「秘密の花園」だし、1900年代のロンドンの場面はディケンズを思い起こさす。すごく楽しんで読んだ。
途中に挟まるイライザによって書かれたお伽噺の章が飾り罫で縁取られ、書体も古風でルビつき。まるで元の本から写したよう。
(青木純子訳 東京創元社 上下とも1700円+税)