竹槍で貞操を守る(わたしの戦争体験記 32)

5年生の1学期には戦局が悪いらしいという気分が国民学校生たちの間にただよっていた。コーシン(甲信)地区には警戒警報が毎晩のように発令されていた。学校では男子生徒は柔道や剣道をやらされていた。銃剣持って突撃のしかたとか。

ある日、女の先生が4年生以上の女子生徒たちに竹槍の訓練をするといいだし、次の体操の時間から始めるという。いざとなったら山に登って、追いかけられたら竹槍で抵抗して貞操を守るんだって。そのすべを教えるというのだ。生徒はみんな黙って聞いているだけだった。

休み時間になってもだれもなにもいわない。「竹槍やる」とも「竹槍はわたしらには無理」とも誰もいわなかった。学校には竹槍が何本かあって、それを持って振り回している子もいた。大抵は無視してたが。

次の体操の日になったが、竹槍の訓練の話は出なかった。やるといってた女先生はなにもいわずに跳び箱の訓練してた。