P・D・ジェイムズ『策謀と欲望 上下』(3)

上下2冊でページ数が多い(上341ページ、下337ページ)上に字が細かい。内容は重厚。連続殺人事件が最初から出てくる。わりとあっさりとこの事件は終るが、その後は原子力発電所総務部長代理ヒラリー・ロバーツが殺され、自殺者が出て、船で海へ出て死んだ者もいる。そして男女関係が複雑に絡み合っている。

登場人物はその岬近辺に昔から住んでいる人間たち、発電所の関係者、反原発運動関係者と多彩。事件に関わる靴を履いた浮浪者をダルグリッシュが見つけて質問し、犯人ではないと判断して事件の靴と自分の靴と交換するが、浮浪者がいちばんいい靴を選んだのでガッカリするところは笑えた。

アレックスとアリス姉弟の緊密な関係、メグとアリスの固い友情、アリスが弟に命一つ借りがあったとメグにいうが、なんのことを言っているかメグにはわからない(読者にはわかる)。
政府上層部からの内密の問い合わせもある。

アダム・ダルグリッシュは叔母からの遺産として受け取った水車小屋をどうするか悩み、最後にいい解決をする。
メグはアリスとの約束を守ってダルグリッシュにさえ打ち明けないが、きっと推察しているでしょうと言う。メグはダルグリッシュに淡い恋心を感じていることに気がつく。帰り道で岬の小高いところに来て振り返ると原子力発電所が見えた。
(青木久恵訳 ハヤカワ文庫 上下とも640円+税)