P・D・ジェイムズ『不自然な死体』(続き ストロンチウム90)

9月20日にこの作品について書いたんだけど書き忘れがあったのに気がついた。
ダルグリッシュ警視は10日間の休暇を過ごすためにサフォーク海岸にある叔母の家に滞在していた。その近くに住む推理作家シートンの死体がボートで流れてきて、否応なくダルグリッシュは事件に関わることになる。
現地のレックレス警部が担当している事件だが殺された作家のロンドンでの動きを調べようとダルグリッシュはロンドンへ行くことにする。警察に電話して出かけると言うと警部との間に【両者いずれも声に出る皮肉な調子を隠そうとしない。たがいに抱く反感がパチパチ音を立てて電話線を走った。】
ダルグリッシュの担当する事件なら全責任を背負い部下は手足として動く。そういう作品も楽しいが、ときどき出かけた先で出合った事件では現地の担当警官の反発を買うことが多い。
ロンドンへ出たダルグリッシュは〈骸クラブ〉で出版社のマックスとうまい食事をして、殺された推理作家シートンの遺言状のことなど話して得るものがあった。

その後ソーホーを突っ切って〈コルテスクラブ〉に向かう。そこは得体の知れぬ独自の生活を営む無国籍の村である。ダルグリッシュは旧知の経営者、死とのぎりぎりの瀬戸際まで行った男と会い話を引き出す。
その席でホットミルクを沸かして飲もうとする男がいた。
【「ソリーは冠状動脈血栓で死んだ。牛乳は何の役にも立たなかったね。むしろ逆で、悪いんじゃないかな。いずれにしろ、そいつには放射能が含まれている。ストロンチウム90がいっぱいさ、そいつは危険だよ、シド」 シドはあわてて流しへ行くと、牛乳を捨てた。】
ここのところだ。この本が発表された1967年頃のわたしは、ストロンチウム90なんて言葉を知らなかった。
イギリスでは1957年にウィンズケール(現在はセラフィールドと改名)原子炉火災事故があった。知っていたような記憶はあるのだが他人事だった。
いま検索しまくり。
(青木久恵訳 ハヤカワ文庫 520円+税)