みどりの黒髪にシラミ(わたしの戦争体験記 60)

田舎の家の井戸(ポンプで汲み上げ式になっているが、つまると釣瓶で汲みあげる式)端で、祖母と近所のおばあちゃんたちが文字通り井戸端会議をしていた。なぜかわたしが側にいてちょこんと座っていた。ばあちゃんたちは遠慮なくものをいう。「こんな子でも十八、十九になれば色気がつくヅラか」「顔はイナでも髪がイイヅラ、みどりの黒髪ジャン」。顔は悪いけど髪はみどりの黒髪という蔑み語りを渋い顔をして聞いていたら、うちのおばあちゃんは「この髪で島田を結ったらいいヅラよ」と慰めてくれた。この戦争のもとでそんなことはありえないといおうと思ったがやめた。おばあちゃんたちのいま現在の好き勝手しゃべる娯楽をうばってはいかん。

その黒髪にシラミがくっついて頭皮を噛んだから痒くて痒くて・・・。暖かくなると頭のてっぺんから降りてきて首筋を這い降りる。後ろの席に座ってる子が「くみちゃん、シラミが降りてきた」とつぶやく。「そうけ」と答えて手を後ろにまわしぷつんとシラミをつぶす。
日当たりの良い日に梳き櫛で髪を深くとかし、櫛につかまったシラミを親指の爪で殺していく。一種の快楽だったなあ。