ダルグリッシュ警視もの長編第2作「ある殺意」(1963)を読んだ。もう50年も前の作品だけど、古びているはずはないという思いは裏切られなかった。することがいっぱいあるのに手放せなくて、なんかもう必死で読んでいた。
第1作の「女の顔を覆え」(1962)はロンドンに近い田舎のカントリーハウスでの事件だった。今回はロンドンの精神科診療所での事件である。
ダルグリッシュは出版社のパーティに招かれていた。ダルグリッシュは警察官であると同時に詩を書き詩集を出版している。1時間ほど経ったとき、「女の顔を覆え」の事件の現場であるカントリーハウスの住人だったデボラがいるのに気がつく。デボラは母の死のあとロンドンの出版社で働いていた。話していて食事に誘いたいと思っているうちに警視庁から事件だと電話がある。すでにマーティン部長刑事は現場のスティーン診療所に行っているという。
ボーラム事務長が地下の医療記録保管室で殺されているのが発見された。ダルグリッシュが到着すると、胸をノミで刺されたボーラム事務長の死体があった。ノミは用務員ネーグルのものだった。ダルグリッシュは事務長の部屋で全員の聴取をはじめる。
診療所で働いているいろんな立場の人たち、院長、医師たち、心理学者、ソーシャルワーカー、アートセラピスト、看護師、タイピスト、用務員、との会話がいい。特に雑用係のエイミー・ショートハウスさんにはすごく親しみを感じた(笑)。
聴取が地味で長いから飽きるかなと思ったが全然そんなことはなくおもしろく読んだ。殺された事務長の頑なところがだんだん明らかにされていき、枝葉末節みたいな話が重要になって絡んでいく。すごい創作力に圧倒された。
シリーズを読み終ったら再読しよう。
(青木久恵訳 ハヤカワ文庫 640円+税)