三浦しをん「仏果を得ず」

友人のYさんが送ってくれた本。彼女がときどき日本の女性作家の本を送ってくれる。直木賞作家の本が多いが、わたしはほとんど知らない。翻訳物以外は明治大正昭和初期の本ばかり読んでいるなと改めて思った。
今回の三浦しをん「仏果を得ず」もはじめて知った本である。三浦しをんという名前は聞いたことがあるが読んだことがなかった。
ちょっと読んでみたらおもしろくて昨日と今日で読んでしまった。
主人公は文楽の若手太夫 建(たける)で、八章あるタイトルが全部文楽の演目がついている。「一、幕開き三番叟」からはじまって「八、仮名手本忠臣蔵」まで、建が語ることになり、三味線の兎一郎と組んで演じる。その芸道を極めようとする日々の笑いと涙の物語である。最初は組むのを嫌がっていた兎一郎だが、一緒にやっているうちに理解しあっていく様子がうまく描かれている。

大阪の町があちこち出てくるのも魅力。住んでいるのは生玉(神社)さんのそばの連れ込みホテルである。偶然知り合ったホテルの持ち主の世話になっている。地方公演のときは留守が安心だし、大阪にいるときは手伝いをする。近所の小学校でボランティアで文楽を教えて、熱心な少女に惚れられる。
文楽を演じる人たちの演目と絡んだ物語がうまくて楽しい。

わたしは若いころに四ツ橋文楽座や道頓堀の朝日座に何度か行ったことがある。能、歌舞伎、文楽、そしてクラシックとバレエに凝っていたハタチのころ。働いたお金はみんなそれらに使った。5年後にはジャズと登山とデモに興味が移ってしまって古典とはさよならしたが、三越劇場で見た桐竹紋十郎が遣った「伊達娘恋緋鹿子」(八百屋お七)が忘れられない。
(双葉文庫 600円+税)

仏果を得ず (双葉文庫)