マイクル・イネス『ハムレット復讐せよ』(2)

登場人物にスカムナム・コートの所有者ホートン公爵の従兄弟で、財閥の大物ジャーヴァス・クリスピンがいる。この名前ヘンやな、ジャーヴァスもクリスピンも知った名前やと思いつつ読んでいたら、あとがきに説明があった。わたしの最も愛する作家エドマンド・クリスピンの作家名と素人探偵ジャーヴァス・フェンの名前は「ハムレット復讐せよ」のジャーヴァス・クリスピンからとったものだった。
ふたりとも良質なユーモアがある作家だと改めて思った。クリスピンの「白鳥の歌」と「愛は血を流して横たわる」をまた読もう。そして、ジョン・アプルビィ警部が結婚してからの物語は読むのは可能かしら。

いま翻訳小説読者の中で執事の人気が上がっているが、この作品に出てくつ執事たちも個性がある。
館の裏社会で別格扱いの地位にいる執事長ラウスの鬼気迫る働きにアプルビィ警部は助けられる。
園庭頭のマクドナルドは饗宴の間のバラ、大応接間のスイートピー、大回廊にはカーネーションと公爵に言われて、それでは自分の温室の花を見にくる客がいるからとカーネーションはやめてシェークスピアにちなんだ野の花を勧める。

未来は外交官のノウエルは広告業界で働くダイアナに気がある。散歩に誘い出して話しているうちに殺人の話になる。どんな野郎がと言ってダイアナに指摘される。女性蔑視の発言したかなとノウエルが聞くと「・・・ちょっとばかりおめでたいんじゃないかしら。あの警部さんだっておんなじよ。この事件はよほどの度胸がないとできないから、女性の仕業だとは思いつかないんだわ」「・・・あなたとわたしで女性陣を洗ってみましょうよ」と男の弱みにつけこみ女の手管を使ってノウエルをくどく。
公爵令嬢エリザベスも広告業界で働くダイアナも賢くて気働きできて腐女子ぽくていい感じ。
(滝口達也訳 国書刊行会 世界探偵小説全集16 2500円+税)