ピーター・キャメロン『最終目的地』

ジェームズ・アイヴォリー監督の作品の中で「最終目的地」がいちばん気に入ったと、DVDを貸してくださったT氏にメールしたら、「それはkumikoさんの腐女子成分の琴線に触れたからかも」と返信があった。それはそうかもと思う部分はあり(笑)。

すぐに原作をアマゾンに注文して、すぐに読んでしまったが、ずいぶんと余韻が残っている。すごーく静かな作品なのだ。400ページを超える長い物語なのに、長さを感じさせない、ただ最後まで静かなのである。

ストーリーは映画とほとんど同じなのでここでは違う箇所だけ。

作家グントの兄アダムの恋人ピートは映画では真田広之がやっていて、徳之島生まれの日本人で15歳のときから知り合って25年ということだったが、原作はタイ人でもっと若い。映画ではここが最終目的地だと言っていたけど、原作は違っていた。どっちもなるほどと思えた。

主人公オマーは小説も映画も同じように静かで考え深い青年。イランのテヘラン生まれの移民で父親は医者で息子も医者にしたいのに、彼は文学を選んだ。彼を主人公にしたのでこの作品が成立したのだと思う。恋人のディアドラはアメリカ女性としてすごくいいひとなのに、すれ違うところがある。

ついにキャロラインから伝記執筆OKが出たが、オマーは書かないと決める。
アメリカに戻ったオマーはディアドラと別れて、アーデンに会いに再びウルグアイに行く。
ウルグアイの屋敷の枯れた湖にアダムとグントの両親がベネチアから運んできた船が置いてあった。蜂に刺される前にオマーとアーデンはその船ではじめて抱き合ったのだった。

キャロラインとグントがウルグアイに住んだわけもわかった。キャロラインの妹が死んでニューヨークのアパートを姉に遺した。キャロラインはニューヨークにもどって暮らすことにする。実は昔ニューヨークに住んでいたとき、妹とグントが恋人どうしだったのをキャロラインが奪い、グントとふたりでウルグアイに逃げたのだ。

物語の終わりは数年後のニューヨーク。オペラ「ホフマン物語」の幕間。観客の中にディアドラはキャロラインを見つける。二人とも男性とともに盛装していて美しい。次の幕ではベネチアの舟歌が歌われる。

オマーが他の南米の作家について書いた本が刊行されているのをディアドラが書店で見つけて買う。著者紹介で、オマーは妻と二人の娘とともにウルグアイ在住と記してあった。

装丁がおしゃれで内容とぴったり。
(岩本正恵訳 新潮クレストブックス 2400円+税)