ピエール・ルメートル『傷だらけのカミーユ』

いつものようにさっと読み終えてから気になるところを熟読した。これでカミーユ・ヴェルーヴェン警部のシリーズ3冊を読了。
去年の11月に読んだ『悲しみのイレーヌ』と『その女アレックス』(発行は14年9月)がよかったので待ち望んでいた3冊目である。
ヴェルーヴェン警部はどんな難事件でも打ち込んでやりとげるのは前の2冊でよくわかっていたが、今回も驚くべき事件が起こったのを短い時間で解決する。

彼の第一の特徴は背が低いこと。わたしとほぼ同じなのだが、日本女子のなかでも背の低いわたしと同じではコンプレックスになるのは当然。50歳で禿げかけていて身長145センチで、最愛の妻を亡くして孤独な生活を送っていたカミーユに若い恋人ができた。アンヌとは再婚はしていないがいっしょに暮らしている。
その朝、アンヌはカミーユの手を振りほどきベッドを出た。通勤中に武装強盗に襲われ瀕死の重傷を負う。報告を受けたカミーユは事件に疑問を持ち、自分の恋人とも知り合いともいわずにたまたま起きた暴力事件として捜査をはじめる。
物語は1日目、2日目、3日目に分かれて、カミーユが事件を追う姿が刻々と記される。上司や同僚や部下にアンヌとともに暮らしていることを隠しての捜査は自身の地位を危うくする。

カミーユの言葉
「愛のためなんかじゃない。状況がこうさせたんだ」
「どん底に落ちることになっても、誰かのためになにかを犠牲にできるっていうのは、そういう誰かがいるっていうのは、悪くないと思う」にんまりして「この利己主義の時代に、なんとも贅沢な話じゃないか。え?」
(橘明美訳 文春文庫 840円+税)

今日からピエール・ルメートル

昨日までイーヴリン・ウオー『ブライヅヘッド ふたたび』でどっぷりイギリスにはまっていたが、今日はピエール・ルメートル『傷だらけのカミーユ』を読み出した。買ったときに最初の数ページを読んだだけだった。3部作の3作目であるのを知ってはいたが、前2作をほとんど思い出せなくてあせった。昨日ウオーの感想を書いたので一区切りつけ、今日からはと積んである本から探し出した3冊。カミーユ警部が主人公の『その女アレックス』『悲しみのイレーヌ』、違う味わいの『死のドレスを花婿に』の3冊とも既読で開いたら思い出した。もう2冊持っている『天国でまた会おう 上下』は未読。早く読まなくては。

2作をざっとさらって思い出してから新作にとりかかった。
最初は読み出したもののなかなか入り込めない。カミーユの恋人として登場したアンヌがひどい災難にあう。すごく詳しく襲われたシーンを描いている。なんかちょっと意味ありげな書き方が引っかかる。なんて考えていたが、まだアタマの中にイギリスが残っていたみたい。夕方になってようやくフランスアタマになってきた。そうなるとおもしろくなり、さっきまで退屈気味だった読書が快楽に転じてきた。コーヒーを片手に読む、読む。これからお風呂に入るけどあがったらまだまだ続きを読む。

サラ・パレツキーの新作『カウンター・ポイント』12月発売!!

ツイッターをうろうろしていて見つけたうれしい情報です。さっそくお知らせ!

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』2016/12/19発売
(ハヤカワ・ミステリ文庫 1400円+税)
出版社内容情報=元恋人から依頼を引き受けた探偵ヴィクは、二十五年前に起きた殺人の真相を追う。事件の裏に潜む巨大な闇とは!? 待望の最新刊

ヴィク健在!!
元恋人って誰だ? どの人かなあ。思いつかないなあ。
ミスタコントレーラスさんにまた会えると思うとうれしい。

まだ1カ月以上あるけど発売日が決まっているし待つのも楽し。
来月の「Vic Fan Club News」は新刊期待号だな。会報出したころに新刊発売だから、1月号は感想特集になるな。

L・P・デイヴィス『虚構の男』

久しぶりに買った国書刊行会の本。かなり前にはちょっと変わった本をけっこう買っていたが最近はご無沙汰中だった。いちばん思い切った買い物は少女雑誌『ひまわり』(復刊)で全冊が大きな箱に詰まったのが届いたときはうれしかった。(たしか28000円だったけどうろ覚え)
今回、読書会で取り上げる本の知らせで久しぶりに国書刊行会の本を買った。責任編集=若島正+横山茂雄だからおもしろいものになるはずと期待したら期待どうりだった。

ドーキー・アーカイヴについての説明【知られざる傑作、埋もれた異色作を、幻想・奇想・怪奇・ホラー・SF・ミステリ・自伝・エンターテインメント等ジャンル問わず、年代問わず本邦初訳作品を中心に紹介する、新海外文学シリーズがついに刊行開始!】というのを読んでうれしくなり、さっそく読書会の課題本に指定された本を買った。挟んである小冊子がすごく楽しい。10冊のうちたった一人知っている名前がドナルド・D・ウェストレイクで『さらば、シェヘラザード』という実験的ポルノ〈作家〉小説だって。即買うしかない。もう一人は女性作家アイリス・オーウェンズの『アフター・クロード』。まずこの2冊は買うっきゃない。

昨日の日記に関西ミステリー読書会が、L・P・デイヴィス『虚構の男』を取り上げたことを書いた。「本の感想はまた明日。」としたので、今日は本の紹介をしなくちゃ。
L・P・デイヴィスは初めて知った名前だけど、訳された本が2冊あったと持ってきた人がいた。1冊手元に回ってきたので書いておく。『四次元世界の秘密』(少年少女世界SF文学全集 1971年 あかね書房)

本作はL・P・デイヴィス(1914-1988)によって1966年に書かれた。イギリスののどかな田舎に住む作家アランは、世話好きな隣人や親切な村人に囲まれて暮している。いまアランは50年後の2016年を舞台にしたSF小説を書こうとしている。
アランは執筆の合間に散歩に出て若い女性と出会う。わたし好みの甘いロマンス小説によくあるような丘の上の草地での語らいや笑いあいながら歩く村の小道のシーンはとてもロマンチックなのだが、どこか違和感が漂ってくる。アランは医者に薬を処方され、付添婦は忘れないように薬を飲ませようとする。穏やかに庭の草取りをしている隣人は親しくしているけど、アランのことを常に探っている。
後半は2016年の世界になる。
(矢口誠訳 国書刊行会 2200円+税)

第17回大阪翻訳ミステリー読書会 L・P・デイヴィス『虚構の男』

夕方から読書会に行った。まず梅田へ出てシャーロック・ホームズで晩ご飯を食べてから指定の場所へ。バスの中もお店の中も会場も寒くてまいった。帰りの駅からの歩きで汗をかいてほっとした。これからだんだん暖かくなって痒くなる予定。

課題本が決まったと聞いてすぐに本を買い、日時が決まって募集があったとき一番に申し込んだ。本を読み始めて半分ほど読んだときに、青木理『日本会議の正体』が出たので買った。内容の濃い本でしかも8月の靖国参拝時期が近いこともあって真剣に読んだ。考え込んでちょっとミステリに戻れなかった。
それからはまだ読書会まで日にちがあるわと、四方田犬彦さんの本を読み、偶然のように知ったマイケル・カニンガムの『この世の果ての家』を夢中で読んだ。そして昨日の『キャロル』スペシャル・エディション [Blu-ray]である。

結局『虚構の男』を3日間で読んで感想を考えることになってしまった。読むのは読んだのだが、読書にコクがない。参加者さんたちが感想を話していくのを聞いていると、みんなそれぞれの気持ちを語っている。自分の順番になって話したものの、本を買ってすぐにページをめくったときの気持ちを再現できなかった。

それでも、いろんなミステリファンの方たちがそれぞれ受け止めた話を聞くのは勉強になった。いま(2016)から50年前(1966)に書かれた50年後(2016)の物語である。50年前によく2016年の様子を描くことができたものだ。
みんなでいまから50年後の世界について話し合った。みんないろんなことを考えているもんだなあ。わたしは一向思い浮かばなかった。

終わった後に懇親会があるのだが、わたしは1回参加しただけであとは学習会のみで帰っている。お酒が飲めないもんで。
本の感想はまた明日。

エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事 3』

今日は雨でここ数日の猛暑がちょっと緩んだ。窓から入る風が心地よい。お気に入りの椅子に座って、お気に入り怪盗ニックの物語をゆったりと読んでいる。ニックとグロリアのようにヨットで海に浮かんでいたらどんなによろしかろうと思いながら。でもうちらにはニックほどの頭と度胸がないからしかたない。せめてコーヒーでも淹れようか。夜が更けたら週末だしウィスキーという手もあるわね。

ニック・ヴェルヴェットはガールフレンドのグロリアとニューヨークで暮らしている。仕事は一件につき2万ドルで値打ちのないものを盗む泥棒である(本書の途中でグロリアの意見で2万5千ドルに値上げする)。お金や宝石や世間で値打ちがあると決まっているものには頼まれても手を出さないのを原則としている。

※この物語はずいぶん前に読んだので書いてもいいと思いました。「きのうの新聞を盗め」をまだ読んでない人はネタバレなのでここから後の一段落は飛ばして読んで、作品を読んでからもう一度ここへお越しください。

ニックは泥棒であることを長期間グロリアに隠していた。ニックのみかけはごく普通だし態度も静かだから、泥棒で稼いでいるなんて全然見えない。グロリアは同居が10年超えても、政府の仕事をしてるみたいだけど、それにしてはおかしいところがあるわねって感じだ。
今回は泥棒であることがグロリアの前で他人の口から明かされてしまい、グロリアは反発する。いよいよ打ち明けるべきときがきたとニックは家で酒を飲みながら打ち明ける。ドキドキして返事を待つニックに軽くグロリアは答える。ほほえんで「最低二万五千ドルは要求すべきだと思うわ」
ほんまに素敵なカップルである。大好き。

『怪盗ニック全仕事 3』には第30話「つたない子供の絵を盗め」からはじまって、第44話「使用済みのディーバックを盗め」まで14の物語が収録されている。
(木村二郎訳 創元推理文庫 1300円+税)

※このブログは以前の「kumiko日記」から引っ越し作業中です。
『怪盗ニック全仕事 』の感想、1と2は移動済みなので、右上の「検索」を使ってお読みください。

ヴィクの年齢について質問があった

はじめての方からメールをいただいた。ヴィク・ファン・クラブに入会希望ではないと、最初に書いてあったので、なーんだ、なんだけど。
ヴィクの年齢に関してのご質問で、これは会員間で話題にもなったことがあるので、返信するけど、せっかく考えるのだからここにも書いておこう。今日のブログネタになった(笑)。

メールから引用させてもらう。
【ヴィクは40歳からあまり年齢をとらなくなってきたのではないでしょうか?】

そうですね。日本での最近作『セプテンバー・ラプソディ』では、ヴィクもコントレーラスさんもロティも元気だ。コントレーラスさんなんか最初に出てきたときから数えれば100歳になってしまいそうだけど元気。そうそう、犬たちもずっと元気でいる。フィクションだからこれでいいんでしょう。フィクションの中に真実がある。

でもまあ、ちょっと考えてみる。
一作目の『サマータイム・ブルース』のときはいくつだったんだろう。いまは本を出して読み返す元気がないが、大学へ聞き込みに行くところがあって、学生たちと話すところは30歳近いかなと思い出した。けっこう弁護士などキャリアも積んでいるし。

16冊の長編小説の中にヴィクが活躍している。いまのところ、その期間は1982年から2013年の約30年なんだけど10年に凝縮されている感じかな。社会情勢のさまざまなシーンに凝縮された年齢のヴィクがいる。
タイプを打っていた時代からはじまって、パソコン、そしてMacを使い出してずっとMacが進化。携帯電話からiPhone、パームを使ってたこともあった。『セプテンバー・ラプソディ』はコンピュータが主役になっている。

サラ・パレツキーさんが来日したとき、近鉄奈良駅の喫茶店でiPadを出して写真を見せてくださったのを思い出す。iPadが出て間もない時だった。

そろそろミステリーにもどろう

四方田犬彦さんの本を読み始めたのは4月で、それ以来四方田熱におかされてずっと読んできた。四方田さんの本を読んでいるだけでなく引用しておられる本や事項も読むからたいした量になっている。まだまだ醒めない四方田熱だが、ちょっと休憩に入る。

木村二郎さんが翻訳されたエドワード・D・ホックの『怪盗ニック全仕事 3』を送ってくださった。わたしの愛してやまない怪盗ニックのはちゃめちゃな冒険物語。さっそく第1話を読んだ。やっぱりおもしろい。これを読み終わるまでしばらく他の本は読まないことにしよう。

今日はお昼前に姉の家に行って夕方もどってきた。帰ってすぐのツイッター。【出かけた帰りにジュンク堂に寄って、ジェイムズ・エルロイ『背信の都 上下』(文藝春秋 上下とも2050円+税)を買った。帰り道が重かったけど、「我がものと思えば軽し傘の雪」の心情(笑)。いつ読めるかな。】とノー天気なことを書いた。ほんまにこの2冊は目方がやけに重たい。内容も重そうだ。「ジャップ殺しの罪はジャップに着せろ。」って帯にある。これぞエルロイって気持ちがはやる。

ホックを読んだらエルロイを読もう。でもすぐに読むのは実はロマンス『スコットランドの誘惑』(マデリン・マーチン)。はずみで買ってしまったの(笑)。7月9日発行だって。たたたとまずはスコットランドに誘惑されよう。

サラ・ウォーターズ『エアーズ家の没落 上下』

『黄昏の彼女たち 上下』の感想を書いたとき、未読の本として本書をあげたらSさんが持っているよと貸してくださった。一気読みしてしまったが、感想をまだ書いてなかった。お話はおもしろくてどんどん読めたが内容は悲しくてつらい物語である。

かつては隆盛を極めた領主館だったが第二次大戦が終わってからは子孫がひっそりと引きこもって寂しく暮している。土地や建物を切り売りしてなんとか暮しているのだが、だんだん生活が苦しくなっている。
村の医師ファラデーの母は第一次大戦前にこの屋敷の女中だった。父は食料品店の使い走りをしていて二人は知り合い結婚した。賢いファラデーを大学に行かすため両親は無理して働き早く世を去った。ファラデーは出身階級である小作人たちの間では嫉妬からくる無視に出会い、ほとんどが豊かな階級出身の医師たちの間では居心地が悪い。でも医師のとしての腕は確かなので認められている。

ファラデーが子どものとき母が内緒でお城に入れてくれた。そのときお城に魅せられてその気持ちはいまも続いている。
不運な一家のために医師として城に出入りするうちに令嬢キャロラインと心が通い合う。しかし、お城と令嬢のふたつを手にする幸福はファラデーには結局訪れなかった。物語が終局に向かう迫力がすごい。

時代が進むにつれ村の人口は増え医院の仕事も増える。仲間の医師たちともうまくつきあっているのでよかった。

すごく長くて怖い物語をドキドキして読んだ。最後までいってまた読み返した。
(中村有希訳 創元推理文庫 上960円+税、下1000円+税)

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』

昨日話題にした『半七捕物帳』とブラウン神父ものはよく似ているとさっき『ブラウン神父の知恵』を読みながら思った。時代は半七のほうが古いが、どちらも「古き良き時代」という感じがするところが似ている。

「賢い人物は、木の葉をどこに隠すかね?そう、森の中だ。森がなければどうすればよい?簡単だ、森を作れば良いのだ。」(ピクシブ百科事典「ブラウン神父」より)

こどものとき家にあったブラウン神父の物語を読んだ。おもしろくないのだがヘンな魅力があったように思う。それから10年以上経って花田清輝が評論集の中で上に引用した「木の葉を隠すのは森の中」を語っているのを読んでブラウン神父を懐かしく思い出したのだった。でもずっと本は読まず、たしか『ミステリマガジン』の短編特集号みたいなのに載っているのを2・3編読んだだけだった。
今回新しい訳本が出ているのを知らなかったが、偶然懐かしい本屋で見かけて買った。縁があったんだ。

G・K・チェスタトン(1874–1936)ロンドン生まれ。本書にブラウン神父が最初に登場するところを引用。「自分の帽子と蝙蝠傘を、大荷物のようにもてあましている風だった。・・・帽子が絨毯に転がり落ち、重い蝙蝠傘が膝の間をすべってドスンと音を立てた。持ち主は手を伸ばして片方を追い、身をかがめてもう片方を拾おうとしながら、真ん丸い顔に変わらぬ微笑を浮かべて、・・・」ユーモラスな神父さんがおそるべき推理力で事件を解決する。
(南條竹則/坂本あおい訳 ちくま文庫 760円+税)