ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』(1)

去年の12月に前作の「深い疵」を読んだ。本書は「深い疵」に続くドイツのホーフハイム刑事警察署の主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと同警部ピア・キルヒホフのシリーズである。いまの署長ニコラ・エンゲルとオリヴァーとは若いころに少しの間つきあったことがある。
オリヴァーはテレビレポーターをしている妻コージマと大きな二人のこどもと最近生まれた子と穏やかに暮らしてきた。仕事中にコージマを見かけたので電話すると、そこで携帯電話をもって話しているのを見ているのに、彼女は遠くにいると嘘をついている。それがきっかけでオリヴァーの気持ちは離れていく。その苦悩のために仕事に打ち込めなくなったりするが、ピアの援護もあり、鋭さを取り戻す。
ピアは法医学者ヘニングと別れて、動物で結ばれた縁のクリストフと暮らしている。
事件の物語とともに、警察官たちの生活と思いが丁寧に描かれているところがいい。

刑務所の門から10年ぶりにトビアスが出てきたのを迎えたのは、この土地出身の人気女優ナージャだった。ナージャはこの10年間ずっと愛しているという手紙をトビアスに出してきた。わたしのところへ行こうという彼女を断ってトビアスはアルテンハイン村の父の家に帰った。
家の外も内も汚れて臭かった。家畜も手放し畑仕事もやめてしまった。そして生活のために牧草地も安く売り払ったという。その上に母は4年前に出て行っていない。

11年前に二人の少女が殺されトビアスが犯人とされ逮捕された。彼はずっとえん罪を訴えていた。トビアスが10年の刑期を終えて出てきたいま、空軍基地跡地の燃料貯蔵槽から人骨が発見され、11年前の連続少女殺人事件の被害者とわかる。

〈黒馬亭〉ではトビアスが戻ってきたという話が店中で囁かれている。ウェイトレスのアメリーはベルリン育ちで前科者で派手好みの17歳、顔には200グラムを超すピアスをつけ、服はいつも黒一色。ベルリンで母と暮らしていたが、父がいるこの村に来た。父がケチなのでアメリーはこのバイトで現金を稼げるのがありがたい。18歳になったらベルリンへもどるつもりだ。
アメリーが仲良くしているのが30歳になる自閉症のティースで、仕事が終わころに外で待って送ってくれるようになった。いつも黙っているティースが今夜はこう言った。「シュネーベルガーはここに住んでいた」アメリーがトビアスが殺した娘かと聞き返すとティースは「そうだよ、白雪姫はここに住んでいた」と答えた。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1300円+税)