木村二郎『予期せぬ来訪者』

「ヴェニスを見て死ね」に入っている作品
[プロローグ、ヴェニスを見て死ね、長い失踪、過去を捨てた女、秋の絞殺魔、バンバン]
「予期せぬ来訪者」に入っている作品
[秘密の崇拝者、ダイナマイト・ガイ、東は東、予期せぬ来訪者、孤独な逃亡者]

ジョー・ヴェニスは1949年に大阪府堺市にあった米軍基地で生まれた。父親がアメリカ人で母親は日本人である。日本語はほんの少ししか話せないが、聞き取ることはできる。白い肌と頑丈な体格は父から、黒髪と茶色い目は母から受け継いだ。オクラハマ・シティーで育ち、オクラハマ大学を出て、20年以上前にニューヨークに出てきて10年ほど探査事務所で働いてから独立した。拳銃を所持し失踪人探しなどの仕事をしている。一人だけの事務所で電話応答サービスとポケベルでなんとかやっている。依頼人が来ると事情を聞きたんたんと仕事にとりかかる。
独身だが事件で知り合った恋人イラストレーターのグウェンとけっこう長いつきあいだ。グウェンはいっときヴェニスとアンジェラ・バランボ警部補との間を邪推したりしたが、考える時間がほしいとボストンの母親のところへ帰ってしまう。ヴェニスはもどってきた彼女をクールにむかえる。
いつもミルク・ティーとアップル・ターンオーヴァーをコーヒーショップで買って事務所に持って行く。なんか健康に良さげなものを食べているなと気になった。検索したら「アップルパイみたいだけど、パイじゃないよ。パイよりもずーと軽くて、ローカロリー」とあった。食べてみたい。

読んでいて皆川博子の「開かせていただき光栄です」を思い出した。両方ともほとんど翻訳ものといっても通用する。昔のロンドンといまのニューヨーク、どちらも地域の説明がていねいである。皆川さんはディケンズ、木村さんはロバート・B・パーカーを思い起こさせる。
こんなところがあった。「いや、スペンサーより料理は下手だし、イギリスの詩なんか暗唱できない。それに、ジョーというファースト・ネームがある」にやっとした。
(創元推理文庫 680円+税)