久しぶりにセイヤーズの「不自然な死」を読んだ

先日「セイヤーズ読書会をしたい」と書いたらセイヤーズが読みたくなって、あまり覚えていない初期のを取り出した。「誰の死体?」「雲なす証言」に次ぐ「不自然な死」(1927)で、前の2作よりも印象がうすい。そういえばだいぶ前に読んだときもそう思ったのを思い出した。「誰の死体?」はずいぶん昔の本を古本屋で手に入れて何度も読んでいる。「雲なす証言」はこの文庫がはじめてなのだが、繰り返し読んで楽しんでいる。2冊ともユーモアと余裕がある。「不自然な死」は好きとは言えないしもう一度読もうと思わないできたが、いま読んだら楽しいところはないがおもしろく読めた。

「不自然な死」は事件があってピーター卿やパーカー警部の登場となるのでなくて、ふたりがレストランで食事しているときに、会話を耳にした横のテーブルの男が話しかけてくる。医師である彼は殺人と思ったが自然死として処理された裕福な老婦人アガサの死について話す。席をピーター卿の部屋に移してより詳しく話した男は、もうすんだことだと名前を名乗らずに帰って行った。その話に犯罪性を見いだしたピーター卿は翌日から動き出す。

ドーソン嬢は遺言状を書かない主義で、当然自分の曾姪(看護士経験のあるメアリ嬢)に遺産がわたると言っていたが、英国の法律が変わって、遺言状がないと曾姪にはいかず国家にいってしまうようになった。そこで法律が変わる前に死ぬことが重要問題になる。自然死か殺人か、捜査を続けるとその後に罪なき女性の死体が発見される。

賢い犯人にバンターも翻弄され、ピーター卿も危うい目にあう。
ピーター卿の聞き込み代理人クリンプスンさんの活躍がめざましい。彼女の捜査人としての義務感と道徳観が矛盾をきたして逡巡するところがおもしろい。この活躍が発展していって「毒を食らわば」の大活躍になる。
(浅葉莢子訳 創元推理文庫 583円+税)