サラ・パレツキー『ウィンター・ビート 』(2)

新年早々にペトラから〈ボディ・アーティスト〉が殺されそうになったからすぐにクラブへ来てほしいと電話があった。駆けつけると本人はなんでもないといい、経営者は警察には届けなかったしヴィクにもすぐに帰ってほしいという。用心棒めいた男がいたりなにかがあるのをヴィクは感じる。
ナディアが描いた〈ボディ・アーティスト〉の体を見て、怒り狂った若い男チャドはナディアに接近するが友人たちに引き止められる。ナディアを助けだしたヴィクは「とっとと消えて!」といわれて首をひねる。
こういうことがあってのナディアの死である。チャドがまず疑われる。彼は自宅のベッドで意識を失っていて、ナディアを射った銃がそばにあった。チャドは意識不明で逮捕され拘置所の付属病院へ搬送された。
次の週にチャドの父親がヴィクの事務所へやってきた。息子が人を殺すはずはないと信じてヴィクに真相を調べてほしいと依頼する。ヴィクの目からでさえ容疑はかたまっているようだが、父親の懇願に折れて調べてみることにする。
チャドはイラクからの帰還兵でクラブでいっしょにいたのは仲間たちだった。単に心に傷を負ったイラク帰還兵が社会に順応できなくての犯行かと思われたが、調べていくうちに深い事情が明らかになっていく。
ナディアにも深い傷があったことがわかる。最後につぶやいたアリーというのは彼女の姉だった。バグダッドで働いていた姉は密かに現地の女性と愛し合っていたのがばれてひどい目にあった。いまナディアの妹も危うい目にあうところをヴィクが知る。

クラブで起こったひとりの女性の死から事件の背景が徐々に明らかにされる。大きな権力を相手にできるだけのことをやってのけたヴィク。ふたりのイラク帰還兵の応援が気持ちよい。最後は〈ゴールデングロー〉のサル・バーテルと得意先のダロウに頼んで応援を得る。ミスタ・コントレーラスもたくさん出てくるし、もちろんロティも。恋人のジェイク・ティボーはいい感じ。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1100円+税)