サラ・パレツキー『ウィンター・ビート 』(1)

【ナディア・グアマンはわたしの腕のなかで死んだ。】から物語がはじまる。ヴィクが真冬のシカゴの〈クラブ・ガウジ〉を出てほどなく、銃声と悲鳴とタイヤのキキーッという音がきこえたので駐車場を走りぬける。ナディアが倒れていて足元には血だまりができていた。ヴィクの腕の中で目を開き「アリー」と言ったのが最後だった。
救急車がきたがナディアは死んでいた。やってきた従業員のなかには従姉妹のペトラもいた。ヴィクがペトラに推測で話をしたらいけないと警察への対応の注意をしていると、女性警官が目撃者に入れ知恵をしないようにという。そして誰かに雇われてきたのかと聞くので、ここのクラブへショーを見にきたと答える。「私立探偵だってたまには休みをとるものよ」。ミルコヴァ刑事との応答のあと「ヴィク、こんなところで何してるんだ?」と、読者にも昔なじみのテリー・フィンチレー刑事がいう。今回はこのふたりの警官に最後までいらいらさせられる。
【クラブの裏口で女が殺されるという、年に一度あるかないかの夜に、たまたま、V・I・ウォーショースキーがそのクラブにきていた? 警部の耳に入ったらどんな質問が飛んでくるか、きみだってわかるだろ。なぜ今夜ここにきた?】

章が改まって、なぜヴィクが〈クラブ・ガウジ〉へ行ったかという話。感謝祭のあとに恋人のコントラバス奏者ジェイク・ティボーが、仲間のウォルシュがクラブで演奏するので、ヴィクとロティ、マックス、ミスタ・コントレーラス、ペトラを招待した。
ウォルシュは中世の旋律にヘビメタの歌詞を合わせるというブレンドをして、アンプをつけたハーディ・ガーディやリュートで弾き語りをした。クラブにとってこれは前座で本命は〈ボディ・アーティスト〉。ほとんど裸でスツールに座っている女性のうしろにはスクリーンがあってボディアートの画像が映し出され、音楽が流れている。彼女の体がカンバスになる。
その日にクラブが人手不足という話を聞きこんでペトラは夜のバイトをするようになった。

ペトラ【「・・・〈ボディ・アーティスト〉は自分の肉体をとりもどそうとしているんだってことと、自分の肉体をとりもどそうとするすべての女性がそれに勇気づけられてるってことを」わたしはペトラを見て考えこんだ。従姉妹とつきあいはじめて七ヵ月になるが、芸術の分野であれ、ほかの分野であれ、女性問題に対する意識を従姉妹が口にしたのはこれが初めてだった。】

ペトラはミスタ・コントレーラスの反対を押し切ってクラブのバイトを続けている。冬になったある日ペトラからすぐに来てと連絡が入る。そして事件の幕開け。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1100円+税)