A・S・A・ハリスン『妻の沈黙』(2)

しつこいくらいにジェラード教授によるジョディのセラピー場面がある。幼児体験を繰り返し質問される。父は薬剤師で薬局を経営していた。ジョディは年の離れた兄と弟の間の女の子で、親に可愛がられ兄はよく妹の面倒を見てくれた。ジョディは弟を可愛がった。しかしあるときから弟は変わり出して家族の手に負えなくなった。いまも常識人からみたら好き勝手な人生を送っている弟をジョディはいつも気にかけている。

入籍していなかったからトッドと別れると財産分与がないことを、相談した敏腕女性弁護士に指摘される。そのうちにトッドの弁護士から家からの退去命令書を送ってきた。30日以内に退去するように書いてある。ジョディは出て行く気持ちがない。ナターシャの父でトッドの友人のディーンから連絡がある。トッドのことを人の道を踏み外していると言い、会って話そうというのをジョディは断る。

結婚はしていなかったが、遺言状によって遺産はジョディのものになる。ナターシャと結婚したときに遺言書も書き換えられるだろう。
トッドが殺されたときは結婚式直前だった。当然、家も財産もジョディのものになる。しかも犯行時にはシカゴから離れたところにいた。警察はジョディに疑いの目を向ける。

A・S・A・ハリスンは2012年6月に本書が出版される前の4月に癌で亡くなった。デビュー作が遺作になった。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 920円+税)